橋本裕の日記
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物体の上面と下面にかかる水圧の差が浮力を生み出している。そして水圧は水の重さによって生じると考えると、浮力(圧力差)は、まさにその物体と同じ体積の水の重さに等しいということになり、アルキメデスの原理が証明される。
水圧は水の重さによって生じるが、気圧は空気の重さによって生じる。地上から大気圏の外まで伸びる空気の柱を考えると、その空気の全重量はおおよそ10メートルの高さの同じ断面積の水柱の重さに等しい。つまり、水中に10メートル潜るたびに、私たちが受ける水圧は1気圧ずつ増えていくことになる。
もともと1気圧あるわけだから、水中に10メートル潜ると2気圧の大きさの水圧を受ける。海面から100メートル潜ると、11気圧もの圧力を受ける。潜水具でもなければとてももちこたえられないわけだ。
水の場合は深さで密度がほとんど変らないので、10メートルごとに1気圧ずつふえていく。しかし、気体である空気の場合は、地上と高い山の上では密度が違っている。高度があがるにつれて空気は次第に希薄になる。したがって水圧が深度に比例するような単純な比例関係は成り立たない。
それでは気圧と地上から高さの関係はどのようにして求められるのだろう。私は中学3年生の頃、この問題を考えたことがあった。私がそのとき採用したアイデアは、空気を立方体の塊に分割し、その小さな箱を地上から順に積み上げるという方法だった。
このときそれぞれの立方体の壁にかかる圧力は、その上に積み重なっているすべての立方体の重量である。さらに、それぞれの立方体には体積は圧力に反比例するという授業で習いたてのパスカルの原理を適用する。そうすると、同じ質量をもつ立方体の体積は、上に行くほど大きくなり、その中の空気の密度は希薄になる。
ここまで考えて、中学生の私は行き詰ってしまった。この後どんな計算をして気圧を求めればよいかわからなかった。そこで、当時我が家に下宿していた井上さんに助けを求めた。彼は福井大学の応用物理科の学生である。彼は私の話を聞くと「君のアイデアはすばらしい」と褒めてくれた。
彼によると、私が採用した「細かく分割して足し合わせる」というアイデアは、アルキメデスが円の面積を求めたり、ニュートンやライプニッツが発明した「微分・積分」の考え方と同じものだという。そして、彼は「分割と足し合わせ」の考え方を使って円の体積を求める方法を教えてくれた。
微分・積分は高校の2年生で習うが、私はこうして中学生のとき、そのエッセンスを知った。それは今思い返しても知的スリルに満ちたすばらしい体験だった。しかしこの後、井上さんが私に語ってくれたことは、私をもっと驚かせた。
彼によると、圧力が水の重さによるという説明は便宜的なもので、本当は目に見えない無数の水分子の運動によるのだという。水や空気の分子が激しくぶつかるその衝撃力こそが圧力の正体なわけだ。私はこれを聞いて、あっと思った。
私がお風呂につかっているとき、私を取り巻く無数の水の分子は、おそろしいスピードで私の皮膚に体当たりしている。それらの分子たちの衝突する力を、私は水の圧力として皮膚に感じているわけだ。また、同様なことは気圧にもいえる。これは気体分子の運動の結果なわけだ。
世の中のすべての現象は、目に見えない原子や分子の働きから説明がつく。そう考えた瞬間、霧が晴れて広大で美しい景色が眼前に広がったように感じた。科学は面白いと思った。そして私も井上さんのように、大学で物理学を専攻したいと思った。
(今日の一首)
目に見えぬ原子分子が見えてくる 世界を変える科学の心
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