橋本裕の日記
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2007年11月14日(水) |
コップの水はなぜこぼれない |
小学校の頃、理科の時間がたのしみだった。それは先生が理科室でいろいろと不思議な実験をしてみせてくれたからだ。たとえばコップを水で満たして、その上に紙を載せる。そして、私たちにこんな質問をする。
「これをK君の頭の上で逆さまにします。どんなことが起こると思いますか」 「コップから水がこぼれて、K君の頭は水浸しになると思います」 「先生は、K君の頭は大丈夫だと思うよ」 「どうして?」 「とにかく、実験してみましょう」
実験台にされたK君は緊張している。事前に「絶対大丈夫」と先生に言われていたのに違いない。それでも不安そうである。
さいわい先生の言うとおり、コップを逆さまにしても、水は落ちなかった。水ばかりか紙もコップについたままである。水がこぼれてK君が水浸しになることを期待していた生徒たちもいたが、多くの生徒はほっとしている。私も「逆さまのコップから水がこぼれない」という不思議な現象を前にして首をかしげた。
先生はその理由をしばらく考えさせてから、ひとりずつ当てていく。しかし、だれも答えられない。私も考えたが答えがうかばない。先生は得意げにこの手品の種明かしをする。これは空気の圧力のせいだという。大気の圧力は10メートルもの水柱をささえる力があるらしい。
ストローでグラスからジュースが飲めるのも、ポンプで水が汲みあがるのも、すべてこの大気圧を利用しているわけだ。植物が根から水を吸い上げるのもそうらしい。だから空気が存在しない月面や宇宙船では、ストローやポンプは役に立たない。植物も育たない。
ところで空気の圧力とは何か。それは「原子論」で考えれば、気体の分子の衝突の力を合わせたものだということになる。逆さまになったコップの水がこぼれないのは、この無数の気体分子がさかんに紙に衝突して、これが落ちてくるのをふせいでいるからだ。
そう考えると、目に見えないはずの分子の活動が見えてくる。見えないものをありありと見る想像力が、科学の理解には大切である。科学が苦手だという子どもや大人は、この想像力や空想する力が乏しいのではないだろうか。
(この文章を書くにあたり、私は台所に行き、コップと新聞紙の切れ端で実験してみた。そして見事に成功した。久しぶりに懐かしい感動がよみがえった)
(今日の一首)
あらふしぎコップの水がこぼれない 空気の圧力手品師のごと
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