橋本裕の日記
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2007年11月17日(土) |
なぜ日焼けをするのか |
私は皮膚がよわいせいか、すぐ日焼けをして真っ赤になる。中学生の頃は、ただもう色が黒くなりたくて日光浴をしたが、そのたびに真っ赤になり、辛い思いをした。しかも、そんなにつらい思いをしても、私の皮膚は因幡の白兎のように赤くはれ上がるだけだった。
もっとも、まったく黒くならなかったわけではない。背中や肩にそばかすのような黒い点が一杯できた。それは年をとるにつれて大きくなり、今は黒いしみのようになっている。若い頃の日光浴のおかげで、私の皮膚はすっかり老化してしまった。まったく馬鹿なことをしたものである。
それはともかく、なぜ日光にあたると日焼けをするのだろう。一般に言われているのは、日光に含まれている「紫外線」のためだという。紫外線は光の中でも波長が短く、振動数の大きな電磁波である。そして波長が短く、振動数の大きな電磁波ほど、おおきなエネルギーを持っている。このエネルギーが私たちの皮膚を変化させるわけだ。
これと対照的に、赤外線は波長が長く、振動数が小さいので、あまり大きなエネルギーを持っていない。これは実感とは違う。赤外線は熱線ともいわれ、ストーブなど高温の物体から大量に放射される。これにあたると、あたたかいし、ときにはやけどをする。しかし、紫外線のように私たちの皮膚を小麦色に日焼けさせはしない。それは赤外線の持っているエネルギーが紫外線に比べて小さいからだ。
同様の効果が金属に光を当てたときにも起きる。金属にある波長よりも短い光を当てると、金属の表面から電子が飛び出してくる。これは「光電効果」とよばれ、飛び出してくる電子を「光電子」と呼んでいる。
問題は、振動数が小さく、波長の長い光をいくら強く当てても、電子は飛び出してこないことだ。必ず、ある振動数よりも大きな光が必要である。振動数の小さな光でも、強く長時間当てていれば大きなエネルギーを金属の表面に与えることができるはずである。ところがそうはならない。これが100年ほど前の科学者たちにとって大きななぞだった。
アインシュタインは1905年に発表した「光電効果」の論文で、この謎を解いて見せた。光がその振動数に比例したエネルギーをもつ粒子(光量子)だと考えればよい。彼の説によれば、振動数νの電磁波はE=hνというエネルギーを持つことになる。ここでhはプランク定数である。実験によると、その値は次のようになる。
h=6.626×(10のマイナス34乗) (単位はジュール・秒J・s)
振動数の小さな光量子は、エネルギーも比例して小さい。エネルギーのたらない光量子がいくら大量に金属の表面の電子にぶつかっても、一つとして電子を外にはじき出すことはできない。それぞれの光量子にそれだけの仕事をするエネルギーがないからである。
これで光電効果の謎が解けた。そしてまた、なぜストーブで日焼けをしないのに、紫外線で日焼けをするのかという謎も解けた。私たちの皮膚にメラニン色素を作り出す化学変化は、紫外線のようにエネルギーの大きな光量子によって生じるわけだ。
ちなみに、私が名古屋大学物理学科の大学院を受けたとき、面接試験に出された問題が、「プランク定数hを測定するにはどうしたらよいか」というものだった。面接官の先生たちを前に、私は黒板を使って、少し緊張しながら「光電効果」の実験のあらましの説明をした。これが成功して、私は大学院に進級できたわけだ。
(今日の一首)
若き日の日光浴のかたみかな 背中も肩もそばかすだらけ
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