橋本裕の日記
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2008年01月07日(月) 角の三等分は可能か

 青春18切符の旅をするときには、かならず本を携帯する。なぜなら車中で本を読むことも、この各駅停車の旅の目的だからだ。本を読み、目が疲れたら、車窓の景色をながめる。そしてときにはそこはかとないよしなし事を考える。そして、一休みしてから、また本の世界に戻る。

 今回の旅で持参したのは「角の三等分」(矢野健太郎著、一松信解説、ちくま学芸文庫)だ。もうずいぶん前に購入して、いつか読もうと思い、書棚においてあった。しかし、なかなか読む機会がなかった。家にいるとつい手軽な時事問題の本や、娯楽小説に手がいってしまう。数学や哲学に関するアカデミックな本はどうしても敬遠したくなる。

 青春18切符の旅だと、じっくり本を読む時間がある。その上、鞄の中にその本しか入っていなければ、それを読むしかないわけだ。それに哲学や数学の本でも、読み始めるとこれが結構面白い。今回持参した「角の三等分」は、アカデミックと言っても一般向きの啓蒙書に近いから、とくに楽しく読めた。

古代ギリシャ時代から研究されてきた難問のひとつに、「任意に与えられた角を3等分せよ」という「角の3等分問題」がある。ここで3等分するために使われるのは定規とコンパスだけである。角の二等分は簡単だが、三等分となるとむつかしい。2千年間以上にわたり、多くの数学者がこの問題に挑戦したが、だれも成功しなかった。

私も高校生の頃、この問題に凝って、いろいろ考えたことがある。しかし結局駄目だった。それもそのはず、じつは19世紀に、「定規とコンパスを使って、任意の角を3等分することはできない」ということが厳密に証明されている。

それではこの難問はいかにして解決されたのか。これについてやさしく解説したのが、「角の三等分」(矢野健太郎著、一松信解説、ちくま学芸文庫)である。

正三角形はコンパスと定規で描くことはできる。だから60度の角は求められる。しかし、その1/3である20度の角はコンパスと定規だけではどうしても描くことができない。その理由を簡単に述べれば、コンパスと定規で求められるのは、加減乗除の四則演算と開平(平方根を求める)だけだからだ。

たとえば∠AOPを2等分する問題は、コンパスと定規で平行四辺形AOPBを描けば、∠AOBがその求める答えになっている。これを座標平面を使った方程式に置き換えると、A(1、0)、P(a、b)、B(x、y)とすれば、

x=1+a、y=b

  となる。つまり角の2等分線を求めるという問題は、この1次方程式を解くという問題に還元される。そして、ここに含まれている演算は「足し算」だけなので、これはコンパスと定規で容易に作図できる。ところが角の3等分を求めようとすると、こう簡単にはいかない。

たとえば、60度の角∠AOPを3等分してできる角を∠AOBとし、A(2、0)、P(a、b)、B(x、y)、a^2+b^2=4 であるとすると、角の3等分線を与える点Bのx座標は次のような方程式の解として与えられる。

   x^3−3x−a=0  

これは3次方程式である。そしてこの解は一般的に3乗根を含むことになる。したがって、角の3等分は四則演算と平方根の式では表されないので、コンパスと定規で作図できないということになる。

もっともここで、「何故コンパスと定規を使って3乗根が求められないのか」という疑問が起こってくる。これについても、「角の三等分」の後半で、一松信さんが解説している。

2乗根については円の性質をつかえば簡単に作図できるが、「3乗根が作図不可能であることの証明」は群論を使ったかなり高度なテクニックが必要になる。ここでやさしく紹介することができないので、興味のある人は直接この本にあたってほしい。


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