橋本裕の日記
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2008年01月08日(火) 格差競争が生み出すもの

A国とB国はライバルである。最近、A国の首相が法人税を下げると言い出した。その理由は、そうしないとA国の企業がB国との競争に負けるからだという。法人税を下げることで、B国の企業が生産拠点をうつしてくれるかも知れない。これでいくらか税収は挽回できる。残りの税収不足は行政の合理化と、消費税の値上げでまかなうらしい。

そうすると、すかさず、B国の首相も同じことを言い出した。企業がA国に逃げ出したらたいへんだ。競争に勝つためには、法人税をさげるのもやむをえないという。こうして両国とも法人税が下がり、その分、福祉が切り詰められ、消費税が値上がりした。庶民の暮らしがきつくなった。

やがて、A国の首相が、個人の累進課税を見直すと言い出した。それから相続税もうんと安くするという。理由はそうすると、お金持ちが移住してくるからだという。B国もすぐにこれにならった。そうしないと、お金持ちがA国に逃げ出してしまうからだという。こうして両国とも、金持ちや資産家にはとても住みやすい国になった。

さらにA国の首相が、労働者の最低賃金を下げたいといいだした。同時に休日も減らし、労働時間の規制も大幅に緩めたいという。さすがこれには国民の多くは反対したが、結局はそうしないとB国に負けるという首相のいつもの論理に押し切られた。

B国もすぐにこれに追随した。こうして両国の労働者は朝から晩まで低賃金で長時間働かされることになった。その一方で、株主や資産家はどんどん豊かになった。

しかし、金持ちたちの幸福も長続きしなかった。凶悪犯罪がはびこり、安心して暮らせなくなった。それに、国民が所得が下がった分、購買意欲がなくなり、不況が深刻化し、倒産する会社が出始め、株価が下がり、金持ちの中にも破産する人が出始めた。

そこでA国の首相は軍事費の増額を言い始めた。戦車や軍艦を作れば景気がよくなると考えた。それに軍事力があればB国から攻められずにすむ。B国もすかさずこれに応じた。こうして戦車やミサイルがたくさん作られ、その分、企業は儲かったが、国家は巨大な借金をかかえることになった。

やがてA国の首相は「B国と戦争するしかない」と言い出した。その理由はB国が大量破壊兵器を隠し持っているからだという。B国の首相もこれに応じて、同じことを言い始めた。こうして国民の生命と財産を守るために、戦争やむなしという声が両国の新聞やテレビで報道されるようになった。しかし、これに反対する人たちも両国にいた。そこで両政府は解散し、選挙で一気に主導権を握る作戦にでた。

しかし、意外なことに、両国で戦争反対派が勝利を収めた。戦争反対派の必死な訴えを前にして、土壇場で、庶民は悪夢から覚めた。国民は戦争よりも平和を望んだ。こうして、両国とも政権が倒れ、あたらしい政権ができた。

両首脳は会談をして、これからは両国民の生活を第一に考えて、庶民にやさしい政策をしようということになった。それから10年ほどして、ようやく両国の国民に笑顔がこぼれるようになった。

お正月にふさわしく、ハッピーエンドで決めてみたが、アメリカ主導のグローバル経済競争で、国際的に格差がひろがり、日本の貧困率もどんどん悪化している。A国とB国のように、格差競争が新たな貧困や社会の不安定化を生み出し、これが戦争やテロを誘い出さないとも限らない。2008年が日本と世界にとって平和な年であることを祈りたい。


橋本裕 |MAILHomePage

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