Love Letters
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あれは、
一昨年の今頃、
春が、まだ足踏みをしている
三月の寒い日でした。
私は仕事を終え、子供を保育園へ迎えに行き、
自宅へ帰るところでした。
地下鉄の薄暗いホームで
息子と手を繋いで、
息子が得意げに話す保育園での一日の出来事を
いつものように聞いていました。
あの日、私は、
不安と哀しみで押し潰されそうな心を抱えていたけれど、
息子に悟られないように、
いつもの笑顔を見せていました。
一瞬、
目の前で起きた出来事が
信じられませんでした。
灰色のホームに
一人の中年の男が飲み込まれていきました。
まるで、
街角のコンクリートの影に逃げ込む
薄汚れた野良猫のように…
男の体が完全に消えた直後、
銀色の電車が滑り込んで来ました。
耳を劈くような急停止の音。
異様なざわめき、
匂い…
咄嗟に
私は、息子の小さい身体を
かばうように抱き寄せ、
その光景が子供の視界に入らないようにしました。
彼らにとっては、
これが日常の一場面に過ぎないのか、
無表情でホームに駆けつける駅員達…
醜い好奇心に目を輝かせ、群がる野次馬達…
私は、息子の手を固く握り、
その場を逃げるように立ち去りました。
「卑怯者。」
私は、心の奥で叫んでいました。
灰色のコンクリートに消えていった男に向けて。
世の中、
長く生きたくても生きられない人もいるというのに、
神様が定めた人生のスパンを
何故、自ら縮めようとするのでしょうか?
「あなたがたった今、捨てた命を
限られた命しか持たない私の愛する者に下さい。」
激しい憤りを抑えきれずに、
胸の鼓動が鳴り続けていました。
今日、
あの日のように
地下鉄のホームで電車を待っていたら、
突然、
あの時の光景が
鮮明に蘇ってきました。
あれから2年、
フラッシュバックを見る度に
胸の動悸が激しくなり、
無意識に泣いていたことさえありました。
けれど、今日、
私の心は落ち着いていました。
ふと、悲しい感情が蘇りはしたけれど、
次の瞬間、
あなたに会える週末に
想いを馳せる自分がいました。
先週末から
風邪を引いています。
今朝、微熱があるとメールに書いたら、
あなたから、直ぐ、
お見舞いメールが届きました。
小夜子、大丈夫?
風邪は引きはじめが肝心だから、
今晩は、鍋焼きうどんみたいな体の温まるものでも食べて、 ゆっくり休んで下さい。^^
私の心と体の健康を
いつも気にかけてくれる人がいる…
2年前とは違う
元気な私でいられるのは、
あなたのおかげです。
小夜子
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