Diary?
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知り合いの黄さんが書いておられた「白湯の話」を読んで思い出したこと。
祖父は、あまり口数の多い方ではなかったように思う。私が中学生の時に亡くなった。私は内孫だったけれど、祖父とはあまり話をした記憶がない。明治生まれで、教育者で、中央アジアの遊牧民のような彫りの深い顔をしていた。子供としては、あまり話しかけたくなるタイプではなかったのだ。
そんな祖父について、私にはただひとつの思い出がある。それはたぶん私が5歳かそこらの時の事で、しばらく忘れていたのだが大人になってから突然思い出した。
珍しいことに、祖父と私が2人でお風呂に入っていたのだ。祖父は私をバシャバシャと面倒臭そうに洗い、一緒に湯舟にどぶん、と浸かった。そしていきなりこんなことを言った。
「女の尻はバケツ3杯分の水じゃぁ。」
…はい?
5歳の私にはなんだかよくわからなかったけれど、大人になってから思い出して母に聞いてみたところ、それは祖父が時おり口にした喩えだそうで、つまり「女性のお尻はとても冷たいので、女性が風呂に浸かるとバケツ3杯の水を入れたように湯がぬるくなっていかんわい」ということらしい。
私はまだ5歳だから尻も冷たくなかったろうに、とりあえず話題に困ってふと言ってみたのだろう。しかし後年、それが孫にとっての自分に関する唯一の思い出になってしまうとは思わなかったろう。しかもその孫が中年になった今、熱い湯に浸かるたびにその言葉を思い浮かべているとは思うまい。
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