思考過多の記録
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2003年06月11日(水) |
「圧力」に酔いしれる人々〜拉致被害家族にもの申す〜 |
マンギョンボン号という北朝鮮の貨客船を巡って、この週末日本(のごく一部)は大騒ぎだった。来るとか来ないとか随分騒いだ挙げ句、来るなら寄って集って調査するぞと脅したところ、結局来ないことになった。「対話と圧力」の「圧力」というわけだ。 新潟に陣取った「例の」面々は凱歌をあげ、海に向かって景気付けにシュプレヒコールなんぞをやっていた。
問題になっているあの船が、どんな恐ろしい企みを載せているのか、それは当の国の支配者達以外は正確なことは知るよしもない。ただ、とにかく北朝鮮という「悪い国」の船だから入港は許さない、という空気だけがマスメディアを通じて数週間をかけて日本中に醸成された。アメリカの議会で脱北者が、マンギョンボン号を使って北商戦側に資金やミサイルの材料までもが日本から運ばれたという証言をしたという報道も、これに一役買った。勿論、この証言を裏付けるものは何もない。ただ、「そうじゃないかと思っていた」という何の根拠もない「気分」がこの証言によって裏付けられたことは紛れもない事実だ。 そしてまた、こうした「空気」が「あの人達」を勢いづかせていることも確かである。
繰り返すが、僕も拉致は犯罪行為だという認識は持っている。拉致された人々の1日も早い救出を望んでもいる。勿論、金正日体制の問題点も認識しているつもりだ。 けれど、どれだけ国内世論の「団結」が強調されても、僕はいつまでたってもあの拉致被害家族達と「救う会」と称する人々に共感できずにいる。それは、彼等があまりにも感情に走りすぎて、視野狭窄に陥っているようにしか見えないせいだ。彼等は、まとまるはずのものすらぶち壊している。そしてその動きにこの国が否応なく巻き込まれていて、なおかつ彼等自身はそのことの弊害に全くと言っていい程気付いていないようである。
彼等は声高に北朝鮮に対して強硬姿勢で臨むことを主張する。外務省内の穏健派の官僚を更迭せよなどと政府に直訴する始末だ。一体自分達を何様だと思っているのかというのはさておいて、僕にどうしても分からないのは、それでこの問題が解決すると彼等が本気で考えているらしいことである。あの国の体質からしてこちらが強い姿勢で臨めば臨む程、向こうも頑なになっていくというのは、これまでの経過を見ていれば明らかだ。「瀬戸際外交」というのは、あの国のそんな傾向をよく表している。経済力も軍事力もない小国が米軍が駐留する韓国という「敵国」と向き合って存在するという彼等の置かれている状況がそうさせているのだろう。
そんな北朝鮮に対して、ひたすら圧力をかけながら追い込んでいったらどういうことになるのか明らかだ。彼等は圧力に屈するのではなく、「暴発」によって圧力をかける側を牽制するという態度に出るだろう。現体制の崩壊を彼等は何よりも怖れている。しかし、牽制や示威のための行動が思わぬ形で朝鮮半島情勢を緊迫化させ、取り返しのつかない事態に発展していかない保証はない。 そんなことになれば、拉致問題の解決など勿論できる筈もない。それどころか、未だあの国に残されている人達は格好の「人質」だ。場合によっては、そういう人達が殺される事態もあり得る。 それだけではない。万が一拉致被害家族や「救う会」の望み通りに金正日体制が崩壊したら、たとえそれが「平和的」に行われたとしても、その後大量の難民が韓国・日本などに溢れてくることは火を見るよりも明らかだ。そうなったとき、海に向かってシュプレヒコールをしながら拳を振り上げていた彼等はどう責任を取るつもりなのだろうか。
今考えるべきは、あの国を如何に暴発させずにこの問題の解決を図るかということである。これは北東アジアの平和と安定を如何に実現するかという、たいへん複雑にして微妙な問題だ。慎重の上にも慎重を期さなければならない。 強硬論を叫ぶ彼等は、ただ鬱憤晴らしをしているに過ぎない。肉親を連れ去られて安否すら分からないという事情があるから、そうしたい気持ちも理解できる。しかし、外交は何も彼等のためだけに行われるのではないのだ。彼等の気持ちに寄り添い過ぎて、大局を見失うことがあってはならない。第一、北朝鮮がああいう外交しかできなくなってしまったのも、あの国を孤立させることをよしとするような外交方針(それに乗っかっているのが安部官房副長官である)をとってきたこれまでの日本政府の責任もあるだろう。そのことを棚上げにして、ひたすらあの国を悪者扱いして事足れりとするのは無責任の誹りを免れないだろう。
拉致被害家族達とその支援者達は、今や外交に対する自らの影響力の大きさを自覚して、過激にして単純な自らの主張を今一度考え直すべきである。そして、本当にこの問題を解決するためにはどうすることが必要なのか、大局的な見地から判断して行動してほしいと思う。彼等の言動によって、この地域の行く末を誤らせることになっては取り返しがつかない。 そして僕がもう一つ懸念するのは、僕のような意見を述べにくい空気が、彼等とマスコミ、そして強面の政治家達によって醸成されつつあるということだ。彼等はあの国だけではなく、自分達に反する国内の意見にまで「圧力」をかけている。テレビや雑誌は毎日のようにあの国の悪事を暴き続けている。やり方は少しスマートだが、やっていること自体はあの国の支配者達と変わらない。
繰り返すが、それで拉致問題や核問題が解決するのであれば、こんな簡単な話はない。もっと冷静になろう。国と国との問題で、感情に流されて物事がいい方向に向かった試しはないのである。
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