思考過多の記録
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2008年11月25日(火) |
空虚な闇〜元厚生官僚殺傷事件容疑者逮捕〜 |
例の厚生事務次官経験者とその家族への殺傷事件だが、全く意外な展開になってきた。 僕が前の文章を書いたその日、容疑者が自首したのだ。 小泉毅というその男は、レンタカーに証拠品を残らず積んで、霞ヶ関の警視庁本庁舎前に乗り付けたのだった。 そして、注目されたその動機について彼は、 「幼い頃、飼っていた犬を保健所に殺された。その恨みを晴らすためだ。年金テロではない。」「高級官僚は悪いと大学に入ってから分かった。」と述べているという。 あまりの論理の飛躍に、世間の誰もがついていけていない。
いろいろな分析がある中で、僕が最も説得力があると思ったのは、例の秋葉原の事件の容疑者と重ねたものだ。 二人とも、途中までは優等生コースをたどりながら、その後挫折を経験し、職を転々としている。そして、二人とも人間関係が苦手だ。 何をやってもうまくいかないことを、「社会が悪い」と決めつけ、社会不安を起こすような行動をとることによって鬱憤を晴らし、なおかつ自分に社会の注目を集めさせる。 所謂「劇場型犯罪」といわれるものだ。 こうなると、犯罪自体が目的で、しかも社会が注目し、マスコミが取り上げ、識者達がもっともらしく解説を加える。そのこと自体が犯人の思うつぼ、ということである。
しかし、それでもなおかつ、今回の事件には不可解な点がある。 一番分からないのは、容疑者の男がどこから生活費を得ていたのかということである。昼夜逆転の生活で、特に何もせずにぶらぶらしていながら、家賃を滞納したことはないという。 親とは全く音信不通になっていたので、仕送りもなかったであろう。 職を転々としている間に蓄えたというのも、ちょっと考えにくい。 実はここに、この事件の核心があるのではないかと思えてならない。 同時に、大きな謎でもある。 本当に犯人はこの男だけなのだろうか。
いずれにしても、彼は明確に官僚経験者をターゲットに選んでいた。図書館で住所を調べ上げ、入念に下見をし、凶器も使いやすいように改造している。 何が彼を殺人に駆り立てたのか。 34年前の犬の話は、おそらくこの事件には直接関係がない。捕まったらこの話をしようと考えていたのではないだろうか。 犬の殺処分と官僚機構とは、全く結びつかないからだ。 しかし、彼の捕まった後の堂々としたふてぶてしいまでの態度は、秋葉原の事件の犯人とは全く異なる。 秋葉原の事件の犯人は、どこか追い詰められたような感じがあった。それに対して彼は、自分の信念を貫いたという自信に満ちたような態度である。
僕も、この国の社会も、まだこの事件を理解できないでいる。 その不可解さが、殺傷という行為の理不尽さを大きくしている。 犬の命を大切に思う優しい心がある人間が、何故何の関わりもない人間の命を奪ったのか。また奪おうとしたのか。 彼の闇の奥にあるものは何か。 あるいは空虚かも知れない。 真相などどこにもないのかも知れないのである。
いずれにせよ言えることは、僕達はこうしたモンスターを生み出す社会を生きているということである。
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