思考過多の記録
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先週、オバマ大統領の就任後初となる議会演説が行われた。 新大統領はまず、アメリカ国民を鼓舞するフレーズから始めた。 「我々は立ち直る」。 しかし、それで終わっていてはただの精神論だ。ここからが新大統領の真骨頂である。 前政権の施策(無策)を批判し、「しかし、我々は未来に対し責任を取るべき時が来た」とはっきり述べた。 そして、予算案では3つの分野、すなわち、エネルギー、医療、教育に重点的に投資すると述べ、具体的な政策の内容と金額について提示していった。 何故現状がこうなのか、そして、どうするべきなのか。どうするつもりなのか。 それをひとつひとつの分野について細かく指摘していった。 そして、例の「戦争」についてである。公約通り、イラクからの撤退を表明。ただ「撤退する」だけではなく、期限を切った。そして、「武力」よりも「交渉」すなわち「外交」で世界と関わり合っていくという方向性を打ち出した。 ただ、アフガンについては、やはり兵力で武装勢力と対抗する姿勢を鮮明にした。
僕は全部を見ていたわけではないが、ニュースの映像などから見ると、とにかく日本の政治家とのギャップを強く感じた。 まず、オバマ大統領は、スピーチの原稿があるにもかかわらず、殆どそれを見ずに、議員達の方、すなわち、その後ろにいる「国民」の方を見ながら喋っていた。 そして、どの分野にどのくらいの資金を投入し、それは何故必要なのか、どこから財源を持ってくるのかをきちんと数字を上げながら話した。 例えば、大統領の政策チームが連邦予算を精査した結果、「10年間で2兆ドルの歳出削減の余地がある」ことが分かった、とか、「子ども達の将来の負債から救うため」(というのは、国債を意味するのだろう)「国民の2%の富裕層の減税をやめる」といった具合だ。 全てが分かりやすく、矛盾点がない。 そして何より、明確で中・長期的なビジョンに基づく具体的な政策があるということが、国民に安心感を与えるだろう。 また、例えば共和党やその支持者のように、具体的な内容について反対の人間に対して、具体的な議論が出来る土台を提供している。
さて、我が方の国会審議であるが、特に本会議での首相の所信表明演説、代表質問およびそれに対する政府側の答弁を見ていると、だんだん飽きてくる。 何故なら、所信表明演説でも、代表質問に対する閣僚の答弁でも、殆ど全部が官僚が作った原稿の棒読み。顔を殆ど上げようともしない。 中には先頃辞任した中川元財務・金融担当相のように、原稿を20カ所以上間違えて読んでしまう者もいる始末だ。 質問する方も、民主党でも共産党でも、「無駄を省き」「軍事費を削減し」などと抽象的なことはいうものの、では「無駄」とは何で、それはいくらで、防衛費をどの程度抑制するのか、何をいくら削るのか、不明なことが多い。 全体として、政府も野党も、中・長期的なビジョン、すなわちこの国をどうしていくのか、どの方向に向かわせようとしているのか、真摯で具体的な言葉で語ろうとしていないのだ。
アメリカと日本のこの違い、いや、具体的にはオバマと麻生の違いは、国民を「説得」しようとする姿勢があるかないかの違いに還元されると思う。 オバマは、その語り口からも誠実さが伺えるが、とにかく政府が今考え得るベストと思って出した法案を、何とか議会で承認してほしい、また国民に理解と協力を求めたいという、ある種の「情熱」に裏付けられたスピーチをしている。 それに対して麻生は、「どうせ衆議院で3分の2があるんだから、結局は予算は無傷でとおるんだよな。だから、こんなのセレモニーに過ぎないんだよな」と思っているのがありありである。当然、国民を「説得」しようなどという感覚はさらさらない。 ただ、「代表質問」という時間があるからやってます、という感じなのだ。 だから、見ていても胸に響いてくる言葉も政策もまるでない。 勿論、中・長期的なビジョンなど語られない。 この国をどうするかというより、来るべき選挙でどう票を取るかだけを考えているような政策が並ぶ。それも、財源がはっきり決まっていない。「定額給付金」がいい例だ。
これは、直接選挙で選ばれる大統領と、与党から選ばれる首相の違いがあるかも知れない。 大統領も首相も国のリーダーであり、国民を幸福にする政策を打ち出し、実行していくためにいる。 しかし、どちらも民主主義の国でありながら、一方は主権者たる国民に語りかけ、「説得」に精力を傾けるのに対して、こちらではもっぱら「永田町」という「ムラ」の中を向いていて、国民が目に入っていないかのようである。 だから、与党内の各勢力や公明党さえ説得できれば、取り敢えず安泰なのだ。 だから、演説で誰を「説得」する必要もない。野党の存在は数で押し切れると思っている。 何と貧困な政治だろうか。
景気が大きく後退し、収入が伸びず、雇用すら危うい中、税金を必死で払っている国民には目もくれず、その国民からの税金の使い道をきちんと明確なビジョンのために使わない政治家達に、この国は支配されている。 国民は国の決めたことに従えばいいと考えているのかも知れないが、それは全く発想が逆だ。 もっと説得力のある政治家がこの国にも求められているのではないか。 世界的な経済危機、そして小泉政権時代の政策の負の遺産に苦しめられる多くの貧困層。 問題山積のこの国の未来を、そして現在をリアルに、信念を持って語るリーダーが今こそ必要なのだ。 そこからしかこの国の再生の道は開けない。 よく首相や細田自民党幹事長は「政局よりも政策」と言って暗に野党を批判するが、「政局」をやっているのは与党も同じだ。 仲間内ではなく、国民を説得できるような政策と言葉を持ってほしい。 選挙のために、「子ども達の将来の負債」になるようなばらまきはやめ、「我々は諦めない」と強く決意を語る政治家を、我々は求めている。
だからもう、政治から距離をおくのはやめようではないか。 国民が見ていないと思うから、政治家は好き勝手をするし、原稿の棒読みもする。 間もなく総選挙がやってくる。 我々有権者も、もっと自分達の声を聞き、それを政策に活かしてくれるような、そして我々を「説得」してくれるような人間を国会に送り出したいものである。
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