思考過多の記録
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2009年03月17日(火) 無知・無教養・無能な「先生」

 自民党の笹川尭総務会長が、今月14日にあった自民党大分県連の会合で講演し、その中で教育問題に触れた上で、
「学校の先生で、鬱病で休業している人が多い。国会議員には1人もいませんよ。気が弱かったら、務まりませんから」
と発言したという。また、それに続けて、
「苦しいときこそ知恵が出る」などと言ったそうだ。



 この笹川という代議士は、これまでも大学のラグビー部で起きたレイプ事件に関して、
「レイプするぐらいの元気が必要だ。」
といった趣旨の発言をして物議を醸す等、失言癖の多い人物だ。
 今回の発言も酷い。
 まるで、「気が弱い人間が鬱になる」と言っているようである。というか、はっきりそう断言しているも同じだ。
 勿論、笹川氏の中では「気の弱い人」=「悪」という図式があるのは目に見えている。そういう人間は教師になるべきではない、という意味もあるだろう。



 ここには二つの問題がある。
 第一に、何故ここ数年、教師に鬱病が多発しているのかという問題、第二には鬱病は「気が弱い」人が罹る病気なのか、という問題だ。
 後者に関しては、日本生物学的精神学会というところが、「鬱病は誰でもなる病気」「気の弱さ、強さとの関係は指摘されていない」などとする声明を出している。
 確かに、鬱病になりやすい人となりにくい人という傾向はある程度あるだろう。しかし、この病気はどちらかと言えばパーソナリティより「環境」の問題である。だからこそ、「誰でもなる」可能性のある病気なのだ。
 鬱病をはじめとするメンタル不全が「弱い」人間のなるものだというのはこの時代にもまだ一般に多くある偏見であり、笹川発言はこれを助長するものだ。
 おそらく、いやほぼ確実に、笹川氏には鬱病に関する専門的な知識はゼロである。知識がないことを断定的に、それも当事者(鬱病で休職中の教師)を攻撃するかのような文脈で使うのは、代議士、それも与党の総務会長という養殖にある者が決してやってはいけないことだ。
 それでなくても、鬱病や心の病で退職を余儀なくされている人達がたくさんいる。
 本来それは間違った対処の仕方なのだが、笹川発言は、まるで鬱病になった責任をその個人に押し付ける論理、すなわちそういう人が職場を追われて当然とする論理である。
 同じ心の病を患った人間として、許しがたい発言である。
 勿論、その後の「苦しいときこそ知恵が出る」などというのは全くの見当はずれな意見であり、小泉元首相の言葉を借りれば「怒るというより、笑っちゃうくらい呆れる」類のものだ。



 第一の問題に戻れば、何故教師に鬱病が多くなったか、そこにはどんな構造的な問題があるのか、といった論議にならなくてはならない。
 先にも書いたように、鬱病は誰でもなる。
 それは、そういう環境があるからだ。
 では、今教師を取り巻く環境とはどのようなものであろうか。
 巷間いわれるように、今では学校や教師の「権威」がなくなり、保護者は学校に不条理なクレームや要求を突きつけるようになった。また、所謂「教育の自由化」によって学校や現場の教師が「評価」の対象となり、例の「全国学力テスト」等の実施と相まって、教育現場に競争原理が導入された。
 これらのことによって、教師は雑務に忙殺され、またお互いが「競争」相手となり、自分の学校、自分のクラスのことで手一杯になってしまった。
 自分の担当するクラスの成績が悪ければ内外から非難され、孤立していく。
 教師には真面目な人が多いから、現状を変えようとして頑張ってしまうが、それが結果に結びつかず、空回りとなる。
 そして、精神を病んでいくのだ。



 こうした背景があって、教師の鬱病、そしてメンタル不全による休職、退職は増えている。
 それをフォローする政策を提案し、現場の声も踏まえて論議して実行していくのが政治家の役割である。
 それを、こともあろうに教師個人の資質に還元するような発言をして憂いているような素振りを見せてみるだけの政治家に、果たして政権を担当する能力があるのだろうか。



結局笹川氏は、この発言で自分の無知・無教養・無能ぶりをさらけ出している。
 現状を正しく把握する能力もなく、ただ思いつくままに喋りまくり、偏見に充ち満ちた思想の持ち主を総務会長にいただく自民党という政党に、本当に政権与党としての資格があるのか、我々有権者はよくよく考えてみる必要がある。
 そして、笹川氏を国会に送り出した群馬県の有権者は、これだけ失言癖のある政治家を選び続けていることに対して、何も感じていないのだろうか。
 自分たちの投票行動が、政治家としての資質に疑問符がつくような人間を国政に参加させ続けていることを反省してもらいたい。
 そして、次の選挙では、もっとまともな人物を選べるように、選択眼を養ってもらいたい。



 繰り返すが、笹川氏に限らず、自民党の国会議員は、首相を筆頭に失言癖がある人間が多すぎる。
 偏見と傲慢さの固まりのような人物、弱者への配慮が微塵も感じられない人物が非常に多いこの政党に、今後の日本を任せていいのか、今回の発言をきっかけに今一度我々有権者は考え直すべきなのではないだろうか。


hajime |MAILHomePage

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