思考過多の記録
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2009年04月07日(火) 「北」のミサイルより危険なもの

 週末は、北朝鮮の「飛翔体」をめぐって日本列島は、というか日本政府は大騒ぎだった。
 北朝鮮が発射予告をした初日は誤報を流し、日本どころか世界中をそのニュースが駆け巡った。
 防衛大臣は陳謝し、結果的に日本の危機管理の脆弱性を浮き彫りにした。
 しかし、実際に「飛翔体」が発射された2日目は、比較的落ち着いた対応で、実際に何事かが起きたわけでもなく、政府はまさにこの出来事を無事に「やり過ごす」ことができたのである。
 しかし、マスコミは大々的に報道し、あたかも日本に向って(狙って)ミサイルでも飛んでくるかのような印象を国民に与えた。
 そこに、PAC3のミサイル発射口が斜め上を向いてその「飛翔体」に狙いを定めている映像が何度も流された。



 この一連のことから何が読み取れるかと言えば、北朝鮮という「脅威」を利用して、自衛隊の存在意義、またMD(ミサイル防衛システム)の正当性、そして、「日本政府」と「自衛隊」いう国民を守ってくれる存在の有り難味、こいったものを国民に相当程度刷り込んだということである。
 その意味では、政府・自民党(なかんずく防衛族)にとっては成果の大きな「事件」だったというわけだ。
 冷静に考えれば、そもそも日本列島の上空を「飛翔体」が通過していくときの高度は、PAC3の射程には入らない。つまり、今回のような場合、日本の防衛システムでは「飛翔体」本体を破壊できないのである。
 また、政府が言うように万が一その「飛翔体」から何かが日本の領土や領海に落下した場合、PAC3はそれを破壊できないことはない。が、仮に破壊したとしても、逆にその落下物の破片が広範囲に落下し、かえって被害を拡大してしまう結果になることが指摘されている。
 それこそ万が一、それが放射能を帯びたものだった利したら、目も当てられない。



 確かに、今回の北朝鮮の人工衛星だかミサイルだかの打ち上げは、国連決議に違反する行為であり、国際社会に対する説明責任を北朝鮮は果たすべきである。
 がしかし、今回の発射をもってして「北朝鮮脅威論」を声高に喧伝するのは、どこか別のところに政治的意図があると考えた方がいい。
 北朝鮮の軍隊は、末端まで食糧が行渡らず、兵士は農民から食料を略奪しているという。また、燃料不足で戦車や戦闘機による訓練も満足に行えないような状態だそうだ。
 今回の「飛翔体」も、それが衛星であれミサイルであれ、結局は失敗したという見方が国際社会の大勢である。一段目のブースターに関しては技術力の向上が見られるというが、それが即大きな脅威に結び付くとは思えない。



 北朝鮮脅威論者は、あの国にはノドンという中距離弾道ミサイルがあり、これは日本列島全域が射程に入るということを強調する。PAC3の配備も、今回「誤報」を全国に速報したエムネットもそれに対処するためには必要不可欠だとする。
 しかし、政治的に考えれば、あの国が日本に実際にミサイルを撃ち込んでくることは考えにくい。
 いや、日本だけではなく、アメリカに対しても韓国に対しても、北朝鮮はミサイルを射ちはしない。
 ミサイルも核開発も、単なる「カード」である。もしくは、外貨獲得のための道具である。
 北朝鮮としては、こうしたカードを手にすることで、6カ国協議や、場合によってはアメリカとの2国間協議を有利に進めたいという意図しかない。所謂「瀬戸際」外交だ。
 それを考えると、今回の「飛翔体」発射で大騒ぎするのは、北朝鮮の思う壺だ。
 いや、北朝鮮だけではない。
 武器商人や、低支持率にあえぐ麻生内閣もほくそえんでいるだろう。
 ここで大騒ぎを演じて、北朝鮮という「敵」を誇大に見せることで、内政に対する不満を一時的にでも忘れさせることができる。
 内政に国民の不満が高まると、外に「敵」を設定して戦争を始め、国民の関心を外に逸らせるのは、為政者の昔からの常套手段である。



 今回は、先に書いたように初期の対応にかなり問題があった。まさに、「慌てふためいた」という感じであった。
 だからといって、もっと「有事」に備えた体制をしっかり整えよう、という話にいくのは、僕は本末転倒だと思う。
 軍事評論家の前田哲男氏は、新聞のインタビューで「ミサイルを発射させないようにするのが政治家の役目だ」という趣旨の発言をしているが、僕も同感だ。
 実は今回騒いだ政治家や防衛省、そして武器を製造している会社などは、北朝鮮が脅威としてあり続けてくれることを願っているのではないか。
 そう思わずにはいられないほど、日本の外交は存在感がない。
 いつもアメリカにくっついて同じことを言っているだけだ。
 「有事」を想定したシステムを整えたり、法制を整備したり、訓練をしたりする暇があったら、「有事」を起こさないようにするにはどうすればよいのか、真剣に考えて欲しい。
 それこそが、真に「国民の生命と財産を守る」ことに繋がる。



 北朝鮮の問題は、各国の思惑が複雑に絡んでいて、拉致被害者の家族がよく主張しているように、制裁を強化すれば解決するという単純なものではない。
 試されているのは、日本の外交力であって、ミサイルに対応する能力ではないのである。
 我々国民も、狡猾な政治家に騙されないようにしなければならない。
 金正日よりも、この国の与党政治家の方が、ある意味よっぱど危険な存在なのではないだろうか。


hajime |MAILHomePage

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