何年前だつたかな、僕の事を見てゐたのだと僕に傳へた男子が居た。
 隣の校舍の窓から僕の教室のある校舍の方をぼんやり見てゐるとよく廊下を走つていく僕が見えたのだと彼は言つた。長くて黒い髮の僕はいつもおつとりとした表情を浮かべてゐて大人しさうで體付きも華奢でか弱く見えたのだ、と。
 でも、それだけではなく、ずつと眺めて居るだけだつたからこんなにも性格が激しくて短氣だとは知らなかつたのだ、とそんな事迄彼は僕に傳へてくれた。

 腰位までの長さの黒髮の女の子がタイプなのだと主張してゐた彼は知り合ふ前迄の僕に明らかに幻想を抱いてゐたのだ。
 勿論、幻想はあくまで幻のものであり現實では無い。
 髮を伸ばしてゐたのは男に見えなくする爲、おつとりした惚けた表情だつたのは眠たくて仕方無かつたから。體付きなんて遠くから見てるだけで正確なものが判る譯も無い。

 彼が話してゐた幻の僕は僕の好きなタイプと類似點を持つてゐた。
 だからとはいへ、僕は自分の好み通りの生物では無いのだ。
2003年01月14日(火)
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