私のひょんな一言から大げんかになったのはおとといの夜。 別れ話になりかけたあと、突然彼が言った。 「明日、会いに行っていい?」
つい2時間前まで、私は彼の手を握っていた。 学校をさぼり、親に黙って東京に来てしまった彼の手を。 駅前の噴水のまわりに腰掛けて、 くだらないことたわいのないことを喋っていると、 彼のお母さんから電話がかかってきた。 口をへの字に曲げて、涙を浮かべて、「ごめんなさい」。 彼の顔はまるで叱られた小学生みたいで、 ごめんね、あんな状況なのに、思わずかわいいと思ってしまったんだよ。
当たり前のことだけれど、彼の親にすれば心配でたまらないはずだ。 そんな親心も分かっているつもりだ。 それでも、こうして、制服を着て、駅で待ち合わせて、 平日の放課後にデートできるということを喜んでしまう私を許してください。 恋愛の形が普通の高校生とは違うとしても、 私の心は普通の高校生の女の子のものでしかないのだから。 6限目の授業終了のチャイムをどんなに待ち望んでいたことか。 駅へ向かう道の途中でどんなに胸をふくらませていたことか。 今日だけでいいから、この幸せを許してください。
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