2005年09月27日(火)
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あの9月28日へ(1) |
あの溢れそうな想いを相手に伝えようと、とうとう決心を固めたのが、この日の丁度3、4日くらい前。 まだ完全に衣替えが済んでいなくて、学校の校舎の中は白と黒の斑模様みたいな空気だった。 誰かに「決心」を聞いてもらおう・・・・と、最初に決意表明をきいてもらった相手はトモくんだった。
奇しくも、すぐそこにまで生徒会の後期執行部選挙が迫っていた。 あたくしは選挙の3日前にようやく打診されていた立候補を許諾し、大急ぎで支度をしているところだった。 本来なら公示されてから何日も張り出しておくために作るポスターも、 あたくしの場合は、本当にインスタント・・・・とはいえ、コレを作ってくれたのは あたくしの初恋の相手、シンだった。(まだ捨てずに実家にある(爆)) 応援演説に、あたくしはトモくんを指名し、彼もまた、快く引き受けてくれたのだった。
9月も末ともなれば、どの部も中体連の大会は全て終わっていて、3年生は引退。 あたくしたちは、いよいよスパートをかけなければならない・・・・そんな時期でもある。 受験へのスパート、卒業へのスパート、義務教育終了へのスパート、まぁそんなところだ。 15歳の時のあたくしは、30歳になった時、自分の隣に誰がいて、どんなことをしながら 日々生活しているのかというのを、おぼろげながらシミュレイトしていたわけだけれど、 初恋に溺れているうちは、何となくその範囲内にシンがいてくれたらいいな・・・・と 本当に淡い気持ちを持っていたりもした。 そしてその反面、これからいくつも恋をしていくんだろうということや、 結婚相手はきっと別の人だろうということも、とても冷静に考えていたりもした。 ただ、15歳のこの日からずっと、「この日のことを覚えておこう・・・・」と思ったことを、以来16年 律儀に心の中に留め置いてきたのだ。 初恋のひとを忘れるような、枯れた人生だけはいやだな・・・・そんなふうに思っていたから。
どうせナーバスになるなら、ひとまとめにしておこう。 きっとあたくしのことだから、何か「勢い」みたいなものがないと、自分の思いを人に伝えることなど しないままに終わっていくんだ・・・・況してやそれが恋心ともなれば、ひた隠しにしたまま 終わらせてしまうことを選んでしまう性分だろうから、コレもきっといいチャンスなのだ。 そんなふうに自分に云い聞かせて、選挙と恋愛を同時進行に進めていこうという、 人生最大に緊迫した数日間の火蓋を、自分の手で切って落とした。
立候補の表明をしてからほんの数日間、演説、投票、開票、結果の告示が済むまでの間に、 あたくしはみるみるうちに痩せていった(笑)。 こっちは、表明後はきちんと演説をこなすことさえできれば、対抗馬もおらず信任投票だったので、 自動的に事が運ぶことは見え透いていた。不信任票が過半数を上回るなんてこと、 学校創立以来、ありえないことだったし、まぁおふざけや本当にあたくしのことが嫌いで 不信任票が入るとしても、450人弱の全校生徒のうちの10票以内であれば、己を許せると思っていた。
問題は、どうやってシンに想いを伝えるか・・・・ということに集約された。 YESなのかNOなのか、相手の出す答えによって、あたくしへのダメージも違うし(笑)、 グレーゾーン的な答えだってありうるのだから、そんな時、どんな顔をすればいいのか 正直、さっぱりわからなかった。 ただ、この不安な気持ちを露骨に悟られないためにも、「選挙」というもうひとつのナーバスの材料は 丁度いい隠れ蓑になってくれていた。緊張の面持ちは、全部執行部選挙のせいにしてしまえるから、 生真面目な印象を崩すことなく乗り切った。
実際、あの頃のあたくしは、別段、大勢の前で話をしたりすることも苦ではなかったし、 それがクラス規模であろうが学年規模であろうが全校規模であろうが、感覚も麻痺して、 緊張すらしなくなっていたので、逆に丁度良かったかも。 この1年前に、当時は親友だった「優等生」の応援演説を頼まれ、何とか伸し上げようと努力もしたし (結果、2年生ながらにして、3年の票をかなり集めることに成功し、彼女は当選した。) この半年前には、急遽選挙管理委員長をやらねばならず、中立な立場というのも経験させて頂いた。 あたくしが立候補する選挙で以って、攻め、守り、永世中立、全ての立場を経験できることになるので、 事実上、ちょっとワクワクしていたのも正直なところだけど。
しかし、その「ワクワク」を遥か凌駕する気持ちがあったことで、あたくしの体重はメキメキ減少(笑)。 恋は単純なからくりだ。 心酔すればするほどに、乙女をどんどん変えていく(爆)。
トモくんに自分の演説の原稿の内容を説明しながら、2人で作戦会議をした。 ふぅ・・・・と一息ついた時に、「あのね・・・・」とあたくしが口火を切った。
「あのね・・・・選挙の結果が出たら言おうと思ってるんだぁ。・・・・シンに。」
「( ̄ー ̄)ニヤリッ おぉ・・・・とうとうか♪」
「うわぁ・・・・もう、めっちゃ緊張するわぁ(苦笑)。」
「まぁ・・・・頑張ってちょうだい(笑)。」
彼もまた、「選挙」については全く心配していないというか、この「( ̄ー ̄)ニヤリッ」も 「頑張ってちょうだい」も、打ち合わせ内容は選挙のことなのに、そっちに向けられたものではなかった。 きっと、あのクラスの中では、誰よりもあたくしが生来、クソ真面目であったことや、 恋愛に関しては疎いということを知っていたはずの彼なのに(4つの頃からのつきあい)、 この時点で、何もかもを見透かされていた気すらした。 コイツには嘘も何も通用しないんだなぁ・・・・そう思った。 今思うと、彼に恋をしていればよかったのかなぁ? と思うけれど、如何せん、距離が近すぎた。 そして、ときめく何かを感じる前に、嘘すらつけないような表裏を知り尽くす関係になってしまった。 恋をするなら・・・・こういう「味方」は非常に心強いのだけど(笑)。
以後、ほんの数日間だけではあったが、トモくんはあたくしの顔を見るたびに、 「( ̄ー ̄)ニヤリッ」 とやって、勝手にカウントダウンをしていてくれた(笑)。 演説の現場ですら、自分が発表する内容やあたくしが立てた原稿の事を気にするよりも、 開票結果告示のことだけが、あたくしと同じくらいのレベルで気になっていたようだった。 壇上に上がることがすっかり日常化していたあたくしらにとって、「演説」は1つのポーズで、 ゲームだったかもしれない。 恋愛はよくゲームに喩えられるけれど、あの頃のあたくしは「死ぬ気の恋愛」、 学校運営のほうがゲームだった。
演説台に隠れて、彼の下半身は全校生徒には見られずに済んでいたのがこの彼にとっての救いだった。 あたくしとトモくんは、彼の演説を聴いている間中、平静を装う振りをして 全校生徒には絶対に見られない、一番面白い部分を堪能し、あとちょっとで壇上で笑い転げるのを 必死で食い止めていたのであった(笑)。 全員の演説が終わって、いよいよ投票、袖に捌けてきた立候補者とその応援者たちは 皆して彼を肘でつつきながら笑った。
「多分、全員がそれなりに緊張しているとは思ったけど、お前のは傑作やなぁ♪」
「いやぁ、うちはてっきり●●君はこういうのは慣れっこで、平気かと思っとったわ(笑)」
「顔や口先には出ないから、余計におかしかったぞ〜♪」
そんな野次が飛び交う中、渦中の彼は、大きな体を小さく丸めるようにして
「絶対緊張しますって!! ・・・・俺だって。」
と、恥ずかしそうにそう言うのであった。壇上にいた時はあんなにも堂々としていたのに、 袖に捌けるや否や、ヘナヘナになってしまった彼もまた、普通の人間なんだなぁと思った。
さて。そんな小さな緩和が通り過ぎるのも束の間、結果の告示は翌日の昼休みだったものの、 開票は即日。選挙管理医員が暗くなるまで、生徒会室を密室状態にして執り行う。 同じクラスに選管委員長がいたので、それとなく様子を窺っても、頑として教えてくれなかった。 翌日になれば、あたくしの半期の指針が決まり、そして恋の結果も出てしまうことになる。 とにかく、それはそれは重要なターニングポイントだったのだ。 翌日の給食時になるまで、あたくしは授業も上の空で、ずっとシンのことばかり考えていた。
あたくしは信任投票だったので、不信任票の集計の結果、当落が確定する。
「書記、信任候補、日野夕雅さん。」
放送から流れてくる結果を待って、教室中が静まり返った。
「総投票数中、不信任票1票。無効票1票。よって後期生徒会執行部書記は日野さんに決定します。」
この瞬間に、教室中が沸き立ってくれた。・・・・たかだか信任投票だというのに、拍手さえ起こった。 あたくしは、一瞬だけ自分の恋を忘れ、この事実に驚愕した。 後に、執行部入りした6名の中で、信任投票だった人間のうち、無効票も含め、たった2票の不信任は、 あたくしと会長を務めることになった少年が最少数だということが判明した・・・・。 正直、驚いた。もっと多いと思っていたのに。 半年前、自分で選管委員長を務めた時に、信任投票でもバカにできない、 いくら無記名投票とはいえ、候補者のことを認めていない人間の数がパッと明るみに出るのだから、 これほど怖いものはないということを、身を以って感じていたし。 決選投票こそ、そういうのが本当の数字になって表われるけれど、 どっちがいいかと問われた時の取捨選択だから、いいか悪いかを問われるのとはまた少し違う。 信任投票は、そこが怖い。(多感期にやるもんじゃないとすら思う・・・・)
あたくし本人が、そっと耳打ちをして、本当の決戦をこの日迎えることを知っているのは、 クラスの中にそう何人もいないはずだったのだけれど、 1つの恋が動き出そうとしていることに対してなのか、それとも本来の偉業に対してなのか、 あたくしはそれでも、あの時贈られた拍手のことを忘れられない。 人生、そう何度とない、素敵な「お祝い」だった。
本当の決戦については、文字数のこともありますし(爆)、翌日分に書こうと思います。 ・・・・つか、ここまでの話も、サーバーに撥ねられるんじゃないかと、内心心配なんですが( ̄∇ ̄;) ではまた明日。ごきげんよう。
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