2005年10月01日(土)
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あの9月28日へ(5) |
すっかり冬になった頃。 あたくしの本当の気持ちはともかく、「事実関係」みたいなものが明るみに出てしまったことで、 あれだけ味方が多くて安らかに過ごしていられた学校は一変し、 あっという間に周囲から切り離されて、あたくしはすっかり「ひとり」になった。
まだあたくしがすっかり口を割り切ったわけでもないのに、どこから耳に入ったのか、 シンまでもが、あたくしのテリトリーから姿を消し、 そして、絶対に揺るがないと思われていたあのヨシオさえもが口をきかなくなった。 仮面を外しても、それを確実に良しと思っていてくれたのは同士・カズコくらいで、 他には誰もいなかった。
殊、クラスメイトのあたくしに対する怒りは完全にリミットを越えていて、 誰にも口をきいてもらえず、正に孤軍奮闘の時期が始まった。 辛くなかった・・・・といえば、コレは全くの嘘になるけれど、1つだけ覚えた。 「二兎を追うものは一兎も得ず」。苦悩の末に体得した教訓である(苦笑)。 この頃何があったかは、いい加減ここにも書きすぎたので、具体的な時系列は割愛するけれど、 ちょうどこの頃に、あたくしは徹底的に責められ、唯一居場所があった「学校」にも 居場所がなくなっていくように、小さくなっていった。
居場所がなくなっても仕事がなくなるわけではなく、特にこの年は新しいことへ着手したこともあって 学校へ行けばやることは山積していたわけで、休むことはどうしても許されず、 口汚く罵られることを覚悟で、あたくしはとにかく登校を続けていた。 執行部内にすら、一時期嫌な空気が流れたが、それはカズコが一蹴してくれたので何とか仕事はできた。
形勢があまりに不利で、時に泣きながら家路につくこともあった。 さも泣いていなかったような振りをしながら、顔が腫れていないかとか、目が赤くなっていないかとか、 そういう部分でのプライドだけは欠落しておらず、結局親にはバレずに済んだ。 自分の子が、逃げられないように周囲を塞がれて、罵倒されているなんて、 親が知ったらきっと卒倒してしまうかもしれなかったから、それだけは隠し通そうと思った。 ある日など、誰も来ないような屋上への階段の踊り場に呼び出され、そこでしこたま責められた後、 何とか解放されて、階段を下りていく途中に後輩に泣き顔を気づかれそうになったこともあった。 見ず知らず・・・・というわけではなかったが、その後輩があたくしに声をかけてくるのは 初めてのことだったと思う。あたくしは必死で涙を隠した。
「あのぉ・・・・日野先輩。」
「なぁに?」
「ヨシオ先輩の・・・・」
嗚呼・・・・とうとう後輩にまで責められる日が来たのか。つか、めっちゃモテるのな、ヨシオ( ̄∇ ̄;) これからどれだけ敵が増えていくんだろう・・・・あたくしは自分に過失があるとはいえ、 かなり気が遠くなっていった。
「ヨシオ先輩の誕生日って・・・・今月でしたよね?」
「え・・・・? あぁ・・・・そうよ。●●日。」
「ありがとうございます♪♪」
少女は嬉しそうにあたくしに向かって一礼すると、一緒についてきていたらしい友達と2人で、 「きゃあ〜♪」などと恥ずかしそうに頬を染めて、笑いながら走り去った。 一瞬、片思いをしていたころの自分が無性に懐かしくなった。 好きな人の誕生日のことがわかっただけで、こんなにも喜びを感じられるだなんて・・・・。 自分もあんなふうに、今年はシンのことを祝ってあげたかったのに・・・・。 彼女たちの後姿はキラキラしていて、そんな「キラキラ」が今、自分にはもうないんだということを呪った。
以後、この理不尽な事情聴取の中で、あたくしがしてしまったことが本格的に白日の下に晒されると、 それをエサに、今度は「●●ちゃんがかわいそう・・・・」「▲▲くんはどうなるの??」と、 あたくしとは全く関係のないところにまで、同情が飛び火して、 遂には、本当に関係がないと思われていた全く別のクラスの中に、悲劇のヒロインまで誕生した。 さすがにこうなってくると、あたくしも呆れてモノが言えなかった。 最初のうちは、恐らく、自分のしでかしてしまった過ちをまだ自分が上手に吸収できていない上、 そういう愚鈍さで人を傷つけている、シンやヨシオを傷つけているのだと言われ、 「それはそうに違いない」とあたくし自身も思っていたので、素直に彼女たちの言うことを聞き入れていた。 が、しかし、そういう忠告をしてくれている子たちこそ、本当に全くの無関係であるということを知って それからは、無意味であった反骨精神を逆手にとって、彼女たちの前で泣くには至らなかった。
あたくしに対して一番激怒していたのは、当時クラスを扇動していたヤスエ(仮名)と、 彼女に吹聴されて、とりあえずヤスエに同情したリエだった。 それまで彼女たちとは、とても仲がよかったはずだったのだ。 ある瞬間を境に、反目という形をとらざるを得ないというこの「現実」が何とも悲しかった。 特に、シンやヨシオに直接関係ないと思われるヤスエは烈火のごとく怒っていた。 シンとヤスエは幼馴染だったから、その派生だったはずなんだけど・・・・と、後日リエからも聞いたが、 どこでどう歪曲したのか、最終的にあたくしに向けられている怒りの内容は、よく解釈してみると そんな可愛らしい「正義感」などでは決してなく、ただの「嫉妬」であることが判明した。道化である。 更なる道化は他にもいた。決してこちらには直接危害を加えようとせず、陰で扇動していた別のクラスの GK(仮名)である。彼女とも、それこそ幼いころからのつきあいだったので、寧ろ仲はいいはずだった。 どうして彼女から敵視されなければいけないのか、そこらへんがさっぱり理解できず、 そろそろほとぼりも冷めるか・・・・?というタイミングで、情報を集めたら、実にくだらなかった。
彼女は全くといっていいほど、あたくしと同じ立場だったのだ(苦笑)。
シンのことも気になる、ヨシオのことも好き・・・・ホントにどうしようかしら♪ ・・・・コレだったのである( ̄∇ ̄;) 彼女がヨシオに対して、それなりにアクションを起こしていたことは知っている。
選挙直前、あたくしとトモくんが演説の打ち合わせをしていたところへ、まるで嵐のように ヨシオが逃げ込んできたことがあった。 何事だろうと、問いかけると 「黙って匿ってくれ!!」 と言う。 あたくしらが向かい合って使っている机の影に息を潜め、彼が隠れているところへ、GKがやってきた。
「あれ〜? ねぇ、ヨシオ見なかった?」
「ん? 見とらんぞ。」
「おかしいなぁ・・・・この辺で見失ったんやけど。」
「通路か・・・・男子トイレじゃない?」
「ったく騒々しいな。どうしたんや?」
「送ってもらおうと思ったのに、逃げられた(-。-) ぼそっ」
「( ̄∇ ̄;)」「( ̄∇ ̄;)」
「もうっ! どこ行ったんやろっ!」と、ヒステリックに姿を消したGKを目で追いつつ、 足元に蹲っているヨシオを見遣ると、実に滑稽で思わず笑ってしまった。
「行った? アイツ・・・・」
「とりあえず、ここにはおらんけど。」
「廊下に出てみろ、すぐ見つかるぞ(笑)。」
「ちょぉ・・・・しばらくここで匿っとってくれ。頼むわ。」
もうこの当時から、彼のことが好きだという女の子は結構いたから、本当は満更でもないくせに。 でも、GKのような押し方は、あたくしでもちょっと勘弁かな・・・・と半分は同情した。 結局、この時はGKの粘り勝ちで、とうとうヨシオもつかまってしまったわけだが、 同じようなことをシンに対してもしていたという話は一切聞かなかった。 彼女は、ほんのつい最近まで彼の「弟」の方にご執心だと誰かから聞いたこともあったからだ。
恋愛に順番など関係ない。そんなことはわかっている。 そしてあたくしは、ジェイウォーキングしてその序列を乱した。当然、何が言えるはずもない。 それは、GKも同じことで、強いて言うならば、勝手に首を突っ込まれたこっちとしてはいい迷惑だ。 開き直って真っ向対決・・・・というのも悪くなかったが、あたくしは生気をすっかり搾り取られて、 そんなことにかまけていられる余裕もなければ、当時は思いつくことさえできなかった。 あたくしのテリトリー外で、勝手に敵意を剥き出しにしている彼女は道化にしかならなかったが、 誰かが吹聴したのではなく(当時は誰にも言わなかったから)、恐らく空気感染して勝手に着火したのか この彼女は、忘れた頃にバッタリ出くわしても、以後ずっとあたくしに対してはこの調子なのである。 (そう・・・・まさにリアルタイム、この現在に至っても(笑))
追い詰まったあたくしは、様々なことに関して気付かない振りをしたり、また一時的に本当に自分を 外界から閉ざしたのもあって、気付けなかったりしたことが沢山あった。 それは例えば、リエが徐々に冷静に事を見始めていることだったり、 カズコが業務連絡であたくしのクラスを訪れた時に感じた、閉鎖的で殺伐とした空気だったり、 既に恋愛市場において一山越えた親友が、回り回ってきた噂を耳にしても尚、あたくしを思ってくれたり、 等々、あたくしにとって旗色の悪いものでは決してなかった。 なのに、気付かない振りをしたり、本当に気付けなかったのは、あたくしが疑心暗鬼になっていたからだ。
12月。2学期の終業式。 カズコに誘われて、階段下にある小さな物置の中で2人で状況を話しあった。 多分、この時、全ての事実関係を一番よく把握していたのは彼女だったし、 彼女もまた、あたくしの知らないテリトリーにおいて、旗色を悪くしつつあったのだった。
「どうなってんのよ、B組は。何、あの空気の悪さ。あたしまで睨まれたやん(笑)。」
「(苦笑)。ゴメンね・・・・全部バレた・・・・吐かされちゃったよ。」
「全部・・・・って?」
「ヨシオとあたしのこと。」
「あぁ、やっぱりそうなってまったか。・・・・誰かに言ったの?」
「ヤスエ・・・・。」
「( ̄□ ̄;)!! ・・・・夕雅さん、そりゃかなりまずいよ(失笑)。で、シンとは?」
「1、2週間くらい前に1回、ゆっくり話したいと思って待ってたんだけど、すっぽかされちゃった。」
「何で?? え・・・・どうしてそうなるわけ?」
「わかんないよ、そんなん。・・・・多分、ヤスエに吹聴されたんやと思うんやけど。」
「夕雅さんの言い分もナシで、そりゃちょっと一方的やん。」
「まぁ・・・・調子に乗せられてキスしたあたしが悪いんだけど(苦笑)」
「ぎゃははははははは _(__)/彡☆ばんばん! ・・・・な、何だぁ♪ 夕雅さんもかぁ(爆)。」
「ちょ、ちょっと・・・・笑い事じゃないよぉ。」
「笑うしかないやん。うちもやもん。」
「えぇっ!!?? ( ̄□ ̄;)!!」
「実はさぁ、今つきあってる彼氏に、執行部であったことバレちゃってさぁ。大ゲンカ。 執行部の男連中も最近つれないしさぁ・・・・なぁんかつまんなくて。」
「カズコもやっぱりそうやったんかぁ・・・・(ある種、感心)。」
「夕雅さんもちょっと走っちゃったね。ヤスエに相談したのは失敗だよ。 こんなことになるのなら、あたしに言ってくれりゃ、それなりに丸く治めれたのに。」
「(溜息)・・・・そうやね。ホント、バカやった。」
いや、バカだったのはあたくしがカズコに相談しなかったこと、それ自体ではない。 どんどん窮地に追い込まれつつあるのは自分だけではなかったのに、それを見抜くことができなかった 自分の愚かしさには、ホントに溜息をついて誤魔化すしかないと思った。
「しかし、B組の子達のやり方は汚いわ。あの中に誰かヨシオのことが好きな子でもいんの?」
「残念ながらいるんだな(苦笑)。」
「その子は?」
「特に何も・・・・何も言わないから逆に不気味。」
「ふ〜ん。で、ヤスエはどうしてここまで騒ぐの?」
「それは・・・・。」
名目上とその実とで理由が食い違っていることに関しては、さすがのあたくしも気づいていた。 彼女は、自分の恋する全く事件とは関係なかったはずの少年が、 あたくしに恋心を抱いていることそのものが、どうしても許せないでいるのだった。 ・・・・これこそ、冷静に考えれば、あたくしを叩く理由にしてはとにかく幼稚で、理不尽なものなのだが、 旗色を悪くしたままのあたくしがそこを突くと、更に状況が悪化しないとも限らないので、 あたくしは黙って動向を見守るように腹を決めたところだったのだ。 言ってしまわなくてもいずれ明らかになる。今、言うのは無粋だ。
カズコはその点、とても器用にやっているようだった。 今の恋人が初恋の相手でもないし、優等生だったわりには随分、浮名を流していた。 多分、この恋が終わってしまっても、彼女が負う痛手は彼女にとってそんなに大きくないのだろう。 あたくしも後々、そうなっていくように、ひとつの恋が消えたからといって、人生が終わるわけじゃない。 そこまで大騒ぎして、悲嘆すべき事柄ではないのだ。 恋心を軽視しているわけでは決してなく、痛みを感じても静かに癒すだけの環境と時間は 自分で用意しておくべきもので、周囲に依存したり流されたりして、自分から離すべきものではないのだ。 離してしまったあたくしは、手にした「ナイフ」に傷つけられた。 元あった「ベール」にも虐げられた。 しかし、そういう痛みも甘んじて受けなければならないという覚悟だけは、芽生え始めていた。
※ちょっとした手違いで、辞書ツールに問題発生。 ボヤボヤしていたら、えらい長文になってしまい、結局まとまらなかった( ̄∇ ̄;) 次こそ、まとめに入ります! えぇ、今度こそホントに!!
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