ケイケイの映画日記
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大層評判が良いので観てきました。面白い、めっちゃ面白い!女性二人が主役ですが、美しさや可憐なビジュアルなんか微塵もない。汗臭くて油臭くて血まみれで。だけど愛なんですよ、愛(見れば解る)。過激でシュールな場面の連続ですが、彼女たちといっしょに、二時間の馳走を、たっぷり堪能しました。監督はローズ・グラス。
1980年代のアメリカ。しがないジムの支配人をしているルー(クリステン・スチュワート)は、ある日ジムを訪れた流れ者風のジャッキー(ケイティ・オブライエン)に一目惚れ。ジャッキーはボディビルの大会で、優勝する夢を抱いています。あっと言う間に同性を開始する二人。ルーには姉(ジェナ・マローン)がおり、DVする夫(デイブ・フランコ)に逆らえない姉を、常に案じています。一方姉妹の疎遠な父(エド・ハリス)は、表向きは射撃場の経営者ですが、実は裏社会の大物。義兄が姉を瀕死の目に遭わせた事から、その事がルーとジャッキーの人生に、大きな影響を与えます。
冒頭からやさぐれ感たっぷりのクリステンが、超素敵。売れっ子の彼女の作品は、あれこれ観ていますが、私はジョーン・ジェットを演じた「ランナウェイズ」の彼女が一番好きです。あの時はジョーンそっくりで、そりゃ感激したもんです。お姫様的な役柄より、私はこんな彼女が観たかったんです。
ジャッキー役のケイティ・オブライエンも、ボディビルダー役なので、身体は作ってきたんでしょうね。そりゃもう、見事な肉体美でね、ちょっとトレーニングする姿だけで、特大の存在感を発揮。その存在感はラストまで駆け抜けます。
ジャッキーと初めて身体を重ねる時、「ノンケの想いで作りじゃないよね?」と尋ねるルー。切ないなぁ。男女だってなかなか難しい一目惚れの相手とのセックス。同性愛なら千載一遇だよね。小汚い風景の中、トレーニングの様子やじゃれ合う二人の情熱は、小汚さも吹っ飛ばす。そんな二人を暗闇に引き込むのが、姉と義兄の関係です。
ルーは父親とは疎遠。刑事のさりげない尋問で、父親の裏家業が原因と匂わせます。私が溜息ついたのは、父は姉が夫のDVに合っていたのは知っていたはず。なのに、義兄は平然と舅の元で働いている。このホモソーシャルの世界では、夫が気に入らないと、例え理不尽な理由であっても、妻は殴られて当然なんでしょう。肝心の姉だって、そう思っている。ルーはそれは大間違いだと、「ある事」で気づいたんだと思う。それでもこの街から出られないルー。それは姉の心配だけではなく、大嫌いの父親の庇護の元から、抜け出すのが怖いのです。
この辺りから、題名のステロイドが生きてくる。ルーに勧められてから、筋肉増強のため、ステロイドを常用し始めているジャッキー。自分の感情の歯止めが利かなくなり、超人ハルクみたいになってしまう。この辺はヒーロー物へのおちょくりかな?オマージュではないと思う。
ここからが二転三転、何がどうだか、混とんとしてきます。この展開が、スピード感たっぷり、全く先が読めなくて、とっても楽しめる。そんなカオスの中、ルーは必死にジャッキーを守り、ジャッキーは幻影の中、ルーの姿を追い求めます。彼女たちは、「運命の二人」なのでしょうね。
小見出しに出てくるジャッキーの生い立ちは、養子である事が最初に話されます。ジャッキーは人恋しさに、途中で家出した実家に電話して、血の繋がらない兄弟に「恋なんてするもんじゃない」と吐露すると、母親に電話を切られてしまう。どこに行くのもヒッチハイクで、職を得るのも、全て体を提供しながらのジャッキー。私は養子先で性的虐待に遭ったのかと想像しました。自尊心の低さが下半身の緩さに繋がり、唯一の取り柄であるボディビルにで優勝し、この浮き草状態から脱出したいんだなと想像したら、とても心が痛い。自分に心底尽くしてくれるルーに、初めて恋も愛も感じたんでしょう。「男女とも両方好き」なジャッキーは、ルーと言う人を愛したんだと思います。
こんなに苛烈な演出を見せら続けて、ラストは思いがけず、ファンタジックやブラックユーモアでまとめて、笑ってしいました。「テルマ&ルイーズ」を想起する人が多いラストですが、死へダイブしたテルマとルイーズですが、ルーとジャッキーも、死が二人を分かつまで、添い遂げて欲しいと思います。子供を地獄へ道連れするのは、親の愛じゃない。だからルーの父親は、娘を愛していないんだよ。対してパートナーは、この人と一緒なら、地獄も怖くないと思うのが愛なんだと、可愛そうなデイジー(アンナ・バリシニコフ)を観ながら、深ーく感じ入りました。
最近忙しいせいか、たくさん映画観過ぎたせいか、寄る年波なのか。小難しいのとか、味わい深い感動とか、あんまり要らないんだよ。とにかく面白いのがいい!の、同好の士に超お勧めします。
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