オミズの花道
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『愛しき弟への手紙』
2003年09月06日(土)


金曜日の夕方に入ってきたメール。
『姉ちゃん、今日から3日間ミナミの店で3周年のイベントをします。
良かったら帰りがけに寄って下さい。』
珍しい。弟からのメールだ。そうか、もう3年目になったのか。この若さで2店舗のオーナーをこなし、3年間維持するとは偉いものだ。

弟、というのは正確でなく、弟分になる。
便宜上面倒なので、周りにはそういう事にしているのだ。何がどう面倒なのかと言うと、私とこの弟分は顔が実にそっくりなのである。私が弟の店に行っても、弟が私の店に来ても、店の子には必ずと言って良いほど身内に間違われるし、いちいち間柄を説明するのも疲れてきたし、話し合って互いの店の子にはもう姉弟で通す事にしたのだ。

コイツはブリブリにモテる。姉と違って女には不自由しない身だ。
ショットバーのオーナーではあるが、どちらかと言うと貧乏であるのに、不思議と女は彼に引き寄せられる。
その引き寄せられた女の子達にあらぬ疑いをかけられ、嫉妬の炎に炙られる事が何度かあった私は、『姉です。』というコメントを彼女等に使うことによって、事態を出来るだけ良い方向に避けて来た。

彼がモテる理由も解らなくは無い。とにかく何事を言ってもやっても、素直で嫌味がないのだ。去年2周年のお祝いに何が欲しいか?と尋ねたら、『大きな観葉植物がいいな!店に置くやつ!普通の大きさじゃなくてデッカイのがいい!』と臆する事無く答えた。
私の気性を知っているので遠慮なく口に出すのだろうが、もっと可愛いのはその後で『絶対枯らさないからね!俺、植物は得意なんだ。姉ちゃんに貰った木だと思うと嬉しくて枯らせられないし。』と言った。
何とまあ可愛いこと。本当は怖くて枯らせる事が出来ないなんじゃないの?
そう、こうやって書いてしまうと如何にもわざとらしそうな『嬉しくて』コメントなのに、弟が言うと本当に嫌味が無くて受け入れられるのだ。

事実、日の当たらない場所でどうしているのかは知らないが、その木は今でも青々としていて、枯れる気配など全く無い。
また植物が得意、というのも嘘ではなく、彼のもう一店舗の方のベランダでは、貰い物の蘭・・・・シンビジュウム、デンドロビュウム、そしてあろうことか胡蝶蘭までもが、もう何年も枯れる事無く毎年花を咲かせている。
これじゃあ得意どころか凄い腕前と認めざるを得ない。通常温室で育てられ、季節外れに売られたものは、ひと時を飾るだけで枯れていくのが普通であるのに、どういうことだろう?
私も薔薇は得意だが、病気や寒さに強い品種を選んだりしているし、気も配っている。だが蘭となるとそうはいかず、貰ってしまっても枯らしてしまうのがオチで、何度も悲しい思いをしていたのだ。
弟と知り合ってからは弟に任せる事にしたので、花達も私も随分と救われている。

私は基本的に若造が好きではないが、コイツだけは身内のような気がして、男に厳しい私が珍しく普段から甘やかしている。
甘やかすのは甘やかすのだが、奴はそれに甘んじず自分を前へ前へ追い立てる。すでにもう経営するバーとは別に、2つの職業においてプロフェッショナルでもある彼は、3足の草鞋を立派に履きこなし、それでも奢らず自分の人生をあるがまま謙虚に生きている。それがまた私にとっては可愛くてたまらないのだ。


仕事を終え、賑わったその場所へ足を踏み入れる。余りにも人が多すぎて見えない弟の姿。探そうにも探せず、困惑する私。また出直そうかなと思ったその時、見知った顔が私に挨拶をする。その顔に『賢ちゃんは?』と尋ねると、背伸びしながら頷いて、一方方向を指してくれる。

『あ!!姉ちゃん!!来てくれたんだ!!』弟クン、満面の笑み。今日は特にいい笑顔。
『3周年おめでとう!!良く頑張ったね!!』
お互いがお互いに辿り着いた時、二人とも条件反射のようにハグをした。女性陣の視線が一気に私を刺す。
・・・・でももう慣れ慣れ。いいじゃん、昔から私と弟、二人の間では昼間でも街中でも、これはもう習慣なんだから。悔しかったら懐かせてみろってんだ、ぺぺぺのぺー。

とは言え私も原稿を抱えた身。そんなにゆっくりする訳にも行かず、一杯だけ飲んで帰る事にする。
『ごめんね、賢ちゃん。今日は帰るよ。また落ち着いたらゆっくり来るから。』
『姉ちゃん、これ多いよ!一杯でこの値段は無いって。』
『今年は急にメールでお知らせだったから、何も用意してなかったの。御祝儀って値段じゃないし、気にしないで。気になるならバイト君と分けなさい。』
『うん。じゃあ分けるよ。ありがとう。また電話するね。』
送らなくて良いと告げ、店の外へ出る。店内に入りきれない若者のグループが、外でそれなりに盛り上がりながら飲んでいる。それを見て何だか嬉しいような、申し訳ないような、不思議な気分になる。
タクシーから弟に電話をかけて『外のお客様にもちゃんと挨拶しておきなさいよ。』そう言おうと思ったが、止めた。

・・・・彼はもう、私の手を離れたのだ。



賢ちゃんへ。
おめでとう。正直ここまで踏ん張れると思わなかったよ。
友人でもありパートナーでもあった人を、あの時に君が切り捨てた事、
他人は好きなように言ったけれども、お姉ちゃんにはちゃんと解っていたよ。

君がちゃんと痛みをもって、心から血飛沫をあげながら、
涙をこらえながら、突き放した事を。
あの時君はやっと、本当の意味での経営者になれたんだよね。
だから今日あんなに沢山の人が君の回りに居てくれたんだよね。
嬉しかったよ。
私こそが、きっと。

お姉ちゃんも君を泣かせた。あんな君は初めてだった。
あの時に私は誓った。君の事はもう絶対に裏切らない、って。
もう二度と君を泣かせたりしない、と。
・・・・とっても綺麗な朝焼けだったのを覚えている。

あれからもう2年が経つよ。
お互い色んな事があったね。

お互いに知ってるけどさ(笑)、仕方ないよね、こんな性分だから。
これからきっと何度もこういう思いはするんだろうね。
だけどさほら、O型ってあんまり懲りないし。きっとずっとこうなんだよね。


心から君を誇りに思う。
大切な人間だと思う。
君は私にとって、いつもいつも大事な宝物だよ。

機会があったら、ちゃんと口に出して言うからね。

ちゃんと眠りなさいよ。
ちゃんと食べて、飲み過ぎないように。
ちゃんと恋をして、沢山泣きなさい。
君はもっとイイ男になれる男なんだから。


お姉ちゃんもちゃんと歩く。
君に誇りにされるように。
大切な人間になれるように。
宝物だと言われるように。

機会があっても言わなくていい。
お姉ちゃんにはちゃんと解ってるから。


大切な弟であり、親友であり、戦友へ。




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