無責任賛歌
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藤原敬之(ふじわら・けいし)

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2005年10月02日(日) 伝わらないことばかりだけれど/『金魚屋古書店』2巻(芳崎せいむ)

 身体の具合が悪いのなんのと言って、いくら言っても家事をサボりまくり、そのくせ、夜中になったら私の眠った隙を突いて、買い食いしにコンビニに出かけまくっていたしげであるが、昨夜は結局、私の制止するのを無視して外に出て行ったので、さすがに腹に据えかねて、本当にしげを外に締め出した。
 買い物からるんらるんらと帰って来て、鍵がかかっているのを知って、ようやくしげは私が本気で怒っていることに気が付いたのだろう。インターホンのボタンを何度も鳴らすのだが、私は極力無視である。
 自分がどうして締め出されたのか、ここんところのワガママぶりを自覚できているなら、ボタンを押すことだってはばかられるはずである。それを遠慮もなくピンポン押しまくっているのは、何一つ反省できていない証拠だ。こんな風に何も考えていないからこちらは腹を立てているというのに。
 いつまでもボタンを押すのをやめないので、仕方なく受話器を取ると、か細い声で「ごめん」と言う。でもそれだけで、あとは何も言わない。こちらも沈黙したままだ。
 口ではいつも「ごめん」と言うのだが、しげがそれで反省したためしはない。こんなふうに締め出されたのだって、初めてのことではないので、もう何度も「謝るんなら行動を改めろ」と言ってきているのだが、次の日にはもうそのことを忘れているのである。
 どうして自分が怒られているのか、何をどう反省したらいいのか、それを話さない限り、私は絶対に中に入れてはやらないのだが、にもかかわらず「ごめん」としか言わないのは、実際、反省するつもりなどまるでなく、何も考えていないからだ。おかげで腹立たしさはますます募った。
 「謝るんなら、『ちゃんと家事をします』ってどうして言えんの?」
 「ちゃんと家事をするから」
 「さっきまで一言も言わなかっただろ!? オレが言ってから言っても遅いよ! どれだけ俺が待ったと思ってるんだ!」
  実際、すぐに反省していれば、そこで家の中に入れるつもりでいたのだ。もう何百回とそのことは伝えているのに、こうして締め出された途端に反省の言葉を忘れてしまうのだから、やはりしげは頭がおかしいのである。もう何十回、何百回、家事をしろと言い続けて、ちゃんとすると約束させられて、それを裏切られてきたことか。病院に通わせても睡眠時間が増えるばかりで何の効果も上がっていない。私は本当に疲れてきているのである。
 頭のおかしい妻を真夜中に追い出すなんて、なんてドメスティック・バイオレンスな夫だと思われるだろうが、しょっちゅう真夜中に愚図って私を起こす夢遊病の妻と一緒にいたら、こっちだって神経がおかしくなる。私は夜は普通に眠りたいのだ。さすがに今日は、こっちの怒りなんてどこ吹く風の糞馬鹿女が傍にいたら、私の神経が持たないと思ったから追い出したのである。これは自衛である。
 「ちゃんと言うこと聞くから入れて」
 「ちゃんと言うこと聞くなら入れてなんて言うな。ともかくもう今夜は入れない。寝たいなら車で寝ろ」
 そう言って、受話器を切って、後は一切、出なかった。しげもようやくあきらめて、すごすごと立ち去ったようである。これがだいたい夜中の3時。玄関前で押し問答し始めてから、1時間くらいは経っていた。
 そのあと、私は疲れて、泥のように眠った。しげが傍にいたら、また夜中に愚図って、私は眠れなかったことだろう。もちろん、そのときには鍵は開けておいたので、朝方にはしげは部屋に戻ってきていたようである。
 ところが、朝になってくたびれて寝ていた私をしげはまた何も考えずに「『ゾロリ』始まるよ、見らんと?」と無理やり起こしてきたのである。
 「だからお前のせいでここんとこ寝不足なんだよ! そのことなんべんも言ってるのにわからんのか!?」
 分かんないやつに分かってくれと語ることほど空しいものはないが、分かんなきゃ本当に出てってもらうしかないんだから、いい加減で分かってくれよ。


 しげをどやしつけて、昼過ぎまで寝る。
 『仮面ライダー響鬼』だけは録画予約しておいたので、後からゆっくり見るつもり。
 目が覚めたら、もう1時過ぎだった。どうせしげはまともな食事の用意なんてしてないので、レトルトカレーを作って食べる。

 『響鬼』三十四之巻「恋する鰹」。
 私が脚本家交代後の『響鬼』擁護派だと勘違いしている人もいるようであるが、「過剰反応するなよ、もともとたいして出来のいい番組でもなかったんだから」と言っているだけで、現状の作品の出来を賞賛してるわけでは決してない。
 途中で路線変更を強いられりゃ、後を任された脚本家はどんな名手であろうと多少の混乱はするものだ。ましてや後任はあの井上敏樹である。どれだけ東映がスタッフ不足であるか分かろうというものだ。今更、ヒステリックなるほどのことはないだろう、もちっとまったりと見ていこうよ、と、「視聴者の態度」を戒めていただけである。それを「作品擁護」と勘違いするんだから、批判派がどれだけ冷静な判断力を無くしているか、そっちの状況のほうが情けないよね。既に劇場版『響鬼』のブログは完全に2ちゃんねる化してしまっている。
 作品そのもので見れば、今回のお話はこれまでの迷走を更に引っ掻き回しているような大迷走ぶりで、これからこのドラマがどこへ行こうとしているのか皆目見当も付かない。モッチーはいきなりキリヤ君に告白しちゃうわ(あれがラブレターでなくて食事のレシピだったりしたら糞笑いである)、あきらは急に将来に不安を感じ始めるわ、姫と童子の傀儡は仲違いし始めるわ、トドロキは糞コントを始めるわ、以前通りの自分の「味」を出せているのはやっぱりヒビキだけだったりする。
 でもそれを井上敏樹一人のせいにすることもできないよなあと思うのは、29話までの展開だってやっぱりどこへ行こうとしているのか分からない状態だったからだ。まったりするのもさすがに『ライダー』では考えものである。
 思うに、このシリーズ、もともと最終話までの青写真というもの自体、全然なかったんじゃなかろうかね。勝手な憶測ではあるが、製作会議みたいなものが開かれて、「これからシリーズはどんな話になるのか」と問われた前脚本家陣が「考えてません」とか正直に言っちゃったんじゃなかろうか。
 と言っても、私ゃ別に本気でコトの真相だのウラ事情だのを知りたいと思っているわけではないし、そんなのはそのうち、公にされる日も来るかもしれないし、来なかったからと言って、どうということもないのである。
 ただ、井上敏樹に対して言いたいことがあるとすれば、せっかくテコ入れに呼ばれたんだから、いつもの受けてるつもりの寒いギャグはやめてよ、話を進めてほしいと思うわけよ。『うる星』のころから思ってたけどさ、「あ、UFO」なんてギャグを押井守がやるとそのしょーもなさが「味」になってかえって受けるのに、井上敏樹がやるとなぜ受けなくなるのか、ギャグだってセンスだけじゃなくて理論で成り立ってるんだってことをいい加減で気付いてくれと言いたいんだよねえ。
 それから、頼むからあんな新米から一歩も出てないやつを「御大」なんて呼ぶなよ。まあ皮肉で言ってるんだろうけどさ。


 遅れていた日記をチマチマ書くが、下手にブログ日記まで始めてしまったせいで、なかなか進まない。書きたいことはそれこそ限りないくらいあるので、抑制することの方が難しいのである。やっぱり、読んだ本、見た映画、このあたりを省略するしかないのだが、それでも分量がいつの間にか原稿用紙にして20枚を越してしまうので、我ながら病気なんじゃないかと疑いたくなる。


 『TBSテレビ50周年 中居正広のテレビ50年名番組だョ!全員集合笑った泣いた感動したあのシーンをもう一度夢の総決算スペシャル』。
 『8時だョ!全員集合』の名場面ベスト30が見られるというのでチェック。見たところ、既発のDVDボックスに未収録のシーンばかりを集めていたのは立派だが、あのコントもこのコントも含まれてないなあ、というのが正直な印象。かなり人気があったと思われる「戦争コント」や「漂流コント」に、全く触れられていないのは放送コードの関係だろう。敵兵ぶち殺したり、土人から逃げたり、今じゃもう無理だわな。つまりそれだけあの番組は今よりずっと「自由」だったのだ。すわしんじの出演シーンが全くないのもなんだか意図的な気がしてイヤな感じである。
 こういう「無難なシーン」だけをベストと言われたって。納得の行くものではないが、つまりはドリフターズはもう「過去の歴史」になってしまったということだ。「20年ぶり生コント」という触れ込みの簡易セットでの「長さん抜き」のコントが、旧作の焼き直しでしかなかったことが、そぞろ寂しさを感じさせるばかりである。


 筒井康隆『ポルノ惑星のサルモネラ人間 自選グロテスク傑作集』(新潮文庫)。
 収録作品は表題作のほか、『妻四態』『歩くとき』『座右の駅』『イチコの日』『偽魔王』『カンチョレ族の繁栄』。
 なんだ、以前、新潮文庫に収録されてた短編ばかりじゃないか、なんでそれを今更出すのだ、と思って巻末の作品リストを見てみたら、これらの作品を収録していた『宇宙衛星博覧会』『串刺し教授』『エロチック街道』『薬菜飯店』『将軍が目醒めた時』、現在全部絶版なのである。筒井さんが「出版不況の中でも、俺の本は売れている」と豪語していたのは十年ちょっと前だったと思うが、筒井さんの本ですら売れなくなっているのだ。若者の活字離れはそこまでひどくなっているんだなあ。
 本ばかり読んでたらバカになるぞと自嘲的に言うことの多い私ではあるが、こうなると「本を読まないと馬鹿な大人になるぞ」とミヤベ先生の言を借りたくなるところである。ハッキリ言って、電撃文庫とか富士見ファンタジア文庫しか読んでないガクセイさんとかと話してみると、本当に馬鹿なんだもの。
 それはそれとして、久しぶりに読み返してみた『ポルノ』であるが、ちょうど筒井康隆が純文学に流れていくころの作品群であるので、せっかくのSFの面白さがブンガクのオブラートに包まれたせいで、「適度につまらなく」なっているのが残念である。それでも当時は筒井康隆はあくまでSFを志向しているのだと思い込もうとして、無理に面白く読んでいた物だったが、今は「この先を書いてくれないと面白くならないのに」とどうしても思ってしまうのである。
 でも、オリジナル版にはなかったポルノ惑星の異様なモンスターども、「ヨコイタクラゲ」「ヤブサカワニ」「タタミカバ」「スズナリミミウサギ」「ジャバラウシ」「タラチネグモ」「バクブタ」「ワスレガタミ」などを、あすなろ舎がコレクションフィギュアとして製作したものの写真が掲載されていたのは嬉しいおまけであった。


 マンガ、芳崎せいむ『金魚屋古書店』2巻(小学館)。
 なつかしマンガを題材に、古書店「金魚屋」に集う人々を描くシリーズも、もう四巻目(前シリーズ『金魚屋古書店出納帳』全二巻からの続き)。
 正直、エピソードによっては出来不出来があるなあと思っていたのだが、巻頭の第八話「彼の風景」は文句なしの大傑作だ。マンガ読んで泣かされたのって、久しぶりじゃなかろうか。いや、泣けるマンガが必ずしも面白いマンガだとは言えない。中途半端なドラマであっても、それなりに「泣かせどころ」のシーンさえあれば、あとはワヤでも何となく泣けてしまうものだ。しかし、一つ一つ、登場人物や設定をきちんと積み重ねて物語を紡ぎあげ、その末に「感動」を構築するドラマだってちゃんとある。これがそうだ。
 生徒会副会長の関口は、名前だけで実力もないのに横暴な会長の腰巾着でいることに嫌気がさしてきている。そんなときに、自分の机の中で見つけた手塚治虫の『アドルフに告ぐ』。それは、定時制に通い、関口と同じ机を使っていた、名前も偶然同じな「関口」が忘れていった本だった。『アドルフ』を夢中になって読んだ関口は、気が付くともう一人の「関口」に、本を読んだ感想を書き連ねていた……。
 落ちまで書くのは控えるが、このエピソードに泣ける理由は、「伝わりようもないことを伝えられた」そう思えるからだろう。言葉は、自分の心の何%も伝えることはできない。言葉は常に歪み、浮き足立ち、そこいら中を跳ね回り、相手に手渡された時には元の姿の片鱗すら遺してはいない。しかも受け手は、そんなわずかな残骸すらも曲解してくれる。言葉が虚しければ、本もまた虚しい。けれども我々は言葉しか、心を伝えるすべを持たないから、懸命になって語り、むさぼるように本を読む。そしてすっかり疲れ果て、ふっと気を抜いた時に ―― 言葉を越えた「何か」を掴んでいたことに気が付くのだ。
 このエピソードの最後の2ページには殆ど言葉がない。にこやかな微笑と、呆然とした顔と、そして去り行く足元が映し出されるだけだ。けれどもその静謐さが、何よりも雄弁に「語りたいこと」を表している。それはやはり、言葉にはできない「思い」なのである。

2004年10月02日(土) たいしてマンガ読んでないのかなあ。/『PLUTO プルートウ』豪華版1巻
2003年10月02日(木) 追加日記1/『サブカルチャー反戦論』(大塚英志)
2002年10月02日(水) もうあのクニについて書くのはやめようかな/ドラマ『迷路荘の惨劇』/『よみきり▽もの』3巻(竹本泉)ほか
2001年10月02日(火) 新番組マラソン開始!/アニメ『FF:U ファイナルファンタジー:アンリミテッド』第1話「異界への旅」ほか
2000年10月02日(月) 出たものは全部食う、は貧乏人の躾か?/『名探偵は密航中』(若竹七海)



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