めろめろ日記...花智ふう

 

 

羽虫3 - 2003年03月09日(日)

学校の屋上で、イオスは鉄格子に背を預けながら、ぼんやりと空を眺めていた。
時折、思いついたように手を広げてみたり、指を閉じてみたり。
今日の授業はほとんど身に入らなかった。今と同じように、外を眺めたり、ペンを持つ手を見つめてみたり。
久しぶりの神無の身体に違和感を覚えているせいだ。
ほんの1ヶ月、ミニイオスとして生活していただけなのに、神無と意思の疎通がとれない今の状態を表しているのか、どうにも落ちつかなかった。
つい昨日までペンは丸太のように太く長く、消しゴムは抱きかかえなければならないほど大きなモノだったのに。

変わらないのは、ここから眺める風景だけ。



昼休みに、教室で食事を取る気になれず屋上へ向かうイオスに担任が声を掛けてきた。
「おい、天野」
「はい、なんでしょうか?」
「この前の進路希望調査の事なんだが・・・」
ああ、そういえば、そんなプリントを神無が書いているのを見ましたねとイオスは思った。しかし、今以上に深く彼に関わるのは神無にとって迷惑なことであるし、人間のことなどまだまだ理解しかねている自分が彼の将来を彼が言わないのに知るのはどうかと思い、そのまま奥に引っ込んでしまったので、実は彼が何を書いたのかまではイオスは知らなかった。
「あの・・・何か問題が?」
「いや、ハッキリした希望があるのはいいんだが、その・・・お前ならもっと上を目指せると思うんだ」
「上・・・ですか?」
「バイクが好きで整備士というのは悪くない。だが、専門学校や就職以外にも道はあると私は思う」
「はい・・・」
「どうかな?工学部あたりでどこか考えてみないか?お前の学力ならどこでも選べる。それに弟の方は大学に行くようだが・・・」
イオスには担任が何を言っているのかよく分からなかった。神無なら、勉強ができるから進学という単純な図式で言ってんだろ、とでも言いそうなものだが、イオスにはそこまでは分からない。素直に神無の身を案じて、視野を広げろと助言してくれているのだと、肯定的に受け取った。
「そうですか。では、先生。もう一度、改めて考えてみますので、もう少し待っていただけますか?」
別に締め切りがある訳でもないのに、イオスは丁寧に答えた。素直なイオスの態度に担任は普段の神無とのギャップにおののき、
「いや、考えてくれるなら、それでいいんだ。すまんな、呼びとめて」
と、早口で告げ、職員室へ戻っていった。
イオスはそれを見届けると、再び屋上へと歩を進めたが、その足取りは重く、食欲はすっかり失せていた。
イオスは担任の言葉に、少なからずショックを受けていた。それは神無の進路の問題ではなく、忘れていた事実をつきつけられて。

『弟の方は大学に行くようだが・・・』

今のように皆で学校に通うのは、もう残り1年もないのだ。下校時こそバラバラになってはいるが、朝になれば七海は天野家にやってきて、いつもどおりの挨拶を交し、学校までの僅かな時間を共有する。学校行事に共に参加したり、試験前に集まって勉強したり。イオスはこの穏やかな時間がいつまでも続くものだと気がつかぬうちに錯覚していた。

人間にとって『時』とは、なんと早く過ぎるものなのか。


目の前に確実に存在し、近付いてくるその『時』を想い、イオスは目を伏せた。
イオスが身を預けている鉄格子では何の風除けにもならない。通りぬける春の風はまだ少し肌寒く、自身を温めるようにイオスは身体を抱き締めた。それでも、心の奥底からじわりと忍び寄る孤独感を拭うことはできない。もう一人の住人も、そんなイオスに手を差し伸べようとはせず、黙ってその気配を消している。
全身を冷たいワイヤーで縛りつけられるような感覚に、イオスは顔をしかめた。

ああ・・・誰か・・・・


「オイ!鍵、開けろっ!イオス!!そこにいるんだろーがっ!」
突如、ガンガンと乱暴に戸を叩く音が響いた。イオスはびくりと身体を震わせたが、同時に縛めが一気に解かれたような開放感を感じた。
扉の向こうには忘れることのない気配。強い魔力の存在。

・・・ソード。

「イオス!寝てんのかっ!?クソ、さっさと開けねえとぶっ壊すぞ!」
その乱暴な物言いにイオスは苦笑した。わざとゆっくりと立ちあがり、扉に近付く。ソードの声をもっと聞いていたいのと、今にも崩れそうだった自分を立てなおす為に。
「はいはい。今、開けますから。そんなに乱暴に叩かないでくださいね」
「チッ。久しぶりにてめえが神無になってやがるから、わざわざ来てやったのによ」
ひどい言い方だったが、その拗ねたような口ぶりが妙に可愛らしくて、イオスはくすりと笑った。
「何、笑ってやがんだよ」
「フフ。この姿ではお久しぶりですね」
「久しぶりも何も、お前、何で、全然出てこなかったんだ?」
ソードが怪訝な顔をしてイオスを睨みつけた。そう言えば、ミニイオスの状態でもソードにはほとんど会ってはいない気がした。
「あれ?そうでしたか?いつでも私は神無さんの側にいましたよ」
ミニの状態では、と付け加えてイオスは答える。
「何言ってる。俺は全然見てねえ」
「そんなことはありませんよ。朝はちゃんと・・・・」
言いかけて、はたと気がついた。
「だって、ソード。貴方はいつでも朝はいないじゃないですか」
今日だって、イオスが朝の挨拶をしたのは、目を擦っている双魔だった。
「馬鹿野郎。朝は寝るもんだ」
ふんぞり返って答えるソード。

それは、違いますよ。ソード・・・・。

イオスは相変わらずのソードの態度に笑った。



***********
あれ?昼休みになったのはいいんですが、七海を出せず。
ってことで、次は「マジですか!?ソード×七海」で。

・・・何度も書いてますが、花智はソーイオファンですぜ。


















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