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避桜地 - 2001年03月22日(木) 開花まであと5日、と、昨夜のニュースが伝えていた。 桜の気配が、すぐ背後に迫っている。 逃げ出したい。 避暑地や避寒地があるのだから、避桜地というものがあってもいいだろう。 できれば、桜の季節を、桜のない土地でやり過ごしたい。 桜が嫌いなわけじゃない。 むしろその逆で、西行ほどではないにしろ、桜を思う気持ちは強い。 人がその一命を預けるのに足る存在かもしれないと思っている。 だからこそ、なのである。 目が弱っている人に、強い光が苦痛であるように、 また、消化器官が弱っている人に、お酒やごちそうが禁物であるように、 心が弱っている人間に、桜花の刺激は強すぎる。 春になれば、と人は言う。 いのちの息吹が満ちる春になれば、病む人もまた元気を取り戻すだろう、と。 しかし、ときには花の気配に脅え、季節に遅れて降る雪の、その仄白さに安堵することもあるのだ。 枕元に贈られる花が、必ずしも励ましになるとは限らないということ。 この先、誰かを見舞うことがあるかもしれないが、このことは肝に命じておこうと思うのだった。 ・・・・・・・ 奥様、避桜は、やはりラップランドになさいますか? マダガスカルのコテージも用意させておりますが そうね、セバスチャン 今はまだ、雪と氷のほうが望ましいんじゃないかしら かしこまりました さっそくラップランドのスミラにメイルいたしましょう お嬢様のカンジキの修理など、済んでいるかとは存じますが 確認いたしますので、あと半日ほどお時間を頂戴させてください 結構よ、セバスチャン 花が靖国に来るまでに発てれば問題ないわ ・・・・・・・ なんちゃって、セバスチャン、現実は、どうしよう? もう時間がないぞ。 ...
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