2004年10月14日(木) 落ちていた卵
 

9/27からの連載になっています。まずは27日の「いってきます。」からご覧ください。


旅に出て4ヶ月と15日目。
わたしは道端で卵を拾った。
ちょうど卵かけご飯が食べたいなぁと思っていたので
わたしは鞄の中からごそごそと、ちょっと深みのある器を取り出し
卵を軽快なリズムで、近くにあった適当な石に打ち付け
両手でぱかりと殻を割った。

そして自分の目を疑った。
卵からころりと出たのは、輝く黄金色の黄身ではなく
ましてや生まれたばかりの鳥でもなく
真っ白い卵だった。

卵から卵。
見事な連係プレーである。(違う)

「もしや君、卵から生まれた?」

などと卵に聞いてみる。
当たり前に返事はない。返事がなくてよかったとわたしはこっそりと思った。

わたしは再び、一回り小さくなった卵を
近くにあった適当な石に打ち付け、両手でぱかりと割った。

ころり、と
卵。

「ふむ。」

わたしはまたも割る。

ぱかり、ぱかり、ぱかり。
ころり、ころり、ころり。
たまご、たまご、たまご。

いい加減飽きたなぁと思い始めたころ、
ぱかりと割ったら、またも自分の目を疑った。
緑色の、渦巻き模様の、風呂敷柄の、小さな卵がころりと落ちてきた。
うずらの卵ほどの大きさのそれをしげしげと眺めると
わたしは丁寧にその卵を割った。

つるり、と出たのは黄金色のきれいな卵。
わたしは思わずにんまり笑って、卵を見つめた。

「それにしても、見栄っ張りな卵ね、あんたって。」

つんつんと黄身を箸でつつきながらわたしは言った。
相変わらず返事は返ってこないが。
当初の予定より、だいぶん黄身が小さいがそれは仕方ない。
卵の性格が見栄っ張りだったんだもの。
さてさて、お昼にしましょ。というところでわたしははたと気づく。

「あ、米…。」

今度は自分自身の情けなさっぷりを疑う番だった。
呆然とするわたしの目の前を緑色で渦巻き模様の鳥が、歩いていく。

「ばーか。」

やけに憎たらしい声で、はっきりとそう鳴いて。

次の日、わたしは炊き立てのご飯を左手に
ふたたび同じ場所へとやってきた。
目指すはあの憎たらしい鳥の生む、見栄っ張りなあの卵。

買ったほうが早いとか、それはこの際おいといて。





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