Aのベッドで過ごす夜。 あまりにも次に、次に、もっともっとと要求が重なり。 私の身体はもう疲労ピークで。 ベッドから降りて、じゅうたんの上に横になった。
眠いの?
そんな声が頭の上から降りてきて。
「眠くもないし、sexもしたくない。」
それだけ答えて、手を跳ね除けて。 ほとほとアホ臭くなって、言葉も出なくなった。
きっとコイツは、sexが好きで。 私を好きなわけじゃない、そう思っていた。
お互い様だと思うのだ。 手っ取り早く、モーションかけたのはアタシだ。
もういいや、そうつぶやいた。 sex好きな女を見つければいい、私には無理だ。
泊まる、と解っていたのに。 私が身体を起こしたのは昼過ぎで。 着替えも何も用意せずにAの家へ来ていた。
考えたら歯ブラシが無い。 現実的なことを思い出した。 そうだ。歯ブラシ買いに行くといって、出て行こう。 時間はまだ23時過ぎだし。 帰ろうと思ったら、どんな手だって使える。
安い映画をテレビで流していた。 それを見ているというフリは、エンドロールで終わった。
私をじゅうたんからベッドへ上げるということを諦めたのか、 Aが電気をけして、布団にまるまる音がした。
携帯のライトを手にして、かばんと洋服をかきあつめた。 ドアを閉めて、玄関先ですばやく着替えて。 ドアの向こうの静まり返った部屋の気配を感じた。
何かおかしいと、Aも思っている。 けれど、何がおかしいのか、私が話さないからわからない。 何か云いたいことがあるんだろう?と何度かAに聞かれた。
いいや、このまま出て、何処かからメールを送ればいい、 sex好きな女を見つけろと、終わりにすればいい。
玄関に手をかけようとした瞬間、 静かな空気を破るような軽快な音が響いた。 Aの電話が鳴ったらしい。 部屋の向こうで、Aがはしゃぎながら話す声が聴こえる。 ・・・私と一緒の時にはあまり聞かない声。 おそらく電話の相手は友人なんだろう。
「・・今? 今デート中だよ。」
何かが私の中で緩んだ。
玄関から手を外して、しばらくAの話し声を聞いていた。
「え?ほんとだって。嘘じゃないよ。デート中! ちょっとまって、今変わるわ。」
いつのまにか、私はドアをあけて、Aの顔を覗き込んでいた。
Aの携帯を受け取り、電話の向こうのまだ顔も知らない相手の声を聴き、
「・・はじめまして、」
挨拶をしていた。
電話の向こうのAの親友は、本当に私が居たことに驚き、 自己紹介をはじめ、はしゃいだ声で、二言三言会話をし、 Aに電話を返したときには、もう全てが如何でもよくなっていた。
電話をきって、Aが私に向き直り、 あいつなんていってた?びっくりしてた? はしゃいで、私を抱き寄せた。
「。。そうだ、歯ブラシ買いに行くんやな?」
「。。うん、アイスとかも買って来ようかなと思ってる。 ・・一緒にいってくれる?」
話そうと思った。 素直に、甘えようと思った。
あなたはHが好きなの?と聞いてみた。
いや、Sherryが好きなんだよ。と返ってきた。
私はてっきり、好きとかそういう感情は無くなって、 ただHが好きな奴だと思ってたよ。
それは、残念だったね、好きだからだよ、
心のつながりを大事にする人も居る。 好きだから身体で繋がりたいと云った奴も居た。
私がたとえば前者だからといって。 それとは違う愛情表現をするAを勝手に誤解していたのかもしれない。 そして、いつものように、その思い込みで、 私はまた飛び立とうとしていた、ことに気がついた。
もう少し、このまま、この人を見ていってもいいかもしれない。 じっくり、じっくり、知っていけばいいのかもしれない。
でも、回数は減らしてね、と笑いながら、お願いした。 そうか、身体つらいか、と残念そうに返すAの鼻を齧った。
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