transistasis
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2000年10月19日(木) アンチ・ATフィールド

アメリカ人SF作家のマイケル・クライトンがNHKの某番組でこんなことを言っていた。
IT革命が本当に地球の隅々にまで行き渡り、人類の総てが均一な情報ネットワーク下に置かれたらあっという間に人類という種は滅びるだろうと。
画一化された種は進化の袋小路に陥り、あるきっかけで全滅するだろうと。
インターネットは人類絶滅の始まりなのだと。

最近、結婚の理想の相手を問うと「価値観が合う人」と答える女性が多くなったという。そして価値観が合わない人が現れなければ、結婚する必要もないと。
価値観が同じということは産まれてくる子供も同じ価値観であるということ。
ある種の近親相姦だ。
種の多様性が失われ、画一化したその種は創造と発展を停止させ、脆弱化し、ちょっとしたことで死に至る。
多様性のない種に未来はない。
もはや女性が結婚するしないにかかわらず、種の衰退は避けられないところまで来た。

最近、個人HPに多くの日記がみられる。
中には自分のプライベートなことに深く立ち入っているものまである。
かつては日記は最も他人に見られてはいけないものだった。
最も明かしてはならない自己、侵されざる神聖なる胎内だった。
それをインターネット上では平気で吐露する。
自分の病、呵責、怒り、悲しみ等、他人には曝せないものがどんどん漏れ出している。
アンチ・ATフィールド。
自己が破壊されていく。自分が自分ではないバーチャルネットワークに流れ出し、自分をその世界に委ね、自分が無くなっていく。
侵されざる自己が曝され、多様性が崩壊し、総てが均一に混じり合いはじめた。
これは滅びの第一歩なのか?
それとも新たな生命体への覚醒なのか?
誰にも解らない。
しかし、この情況をポジティブに解釈しても己の肉体に魂が宿っている限り、いずれは己を支えきれなくなって崩壊するのは時間の問題。
不要な身体を捨てない限り、こんな情況に耐えられるはずはない。
しかし、人がネットワーク上に自己を吐露し始めたのが、この肉体を捨てたいというシグナルなのだとしたら。
もう今更後戻りは出来まい。
禁断の果実を食べたアダムとイヴは楽園を追放される。
もはや、暖かい温もりのある肉体には帰れない。
新たなる魂のステージ、『魂の座』を獲得する闘争に参加しなければ滅びあるのみ。
君がHP上の日記に自己を吐露した瞬間、
君は死の拠り所を捜して彷徨せねばならぬ血判を虚構世界に印したのと同じ。
人間ではない何者かにメタモルフォーゼするために。


絶望皇太子