縁側日記  林帯刀





2005年08月05日(金)  蝉。


桔梗が咲いた。
向日葵の種を鳥がつついている。
蝉が鳴いている。
彼らが出てきた穴を見つける。
とても深い穴だ。
そばの背の高い草に抜け殻がついている。
別のところでは腹を見せて蝉が落ちている。
脚を縮め、羽を閉じ、
気をつけをしたように落ちている。
蝉の声は夜明けから日没までひっきりなしに続く。
一匹一匹の声は聞き分けられない。
連続する死に際の声だ。





花瓶の水が白く濁っている。
昨日の朝替えたというのに。
夏場はすぐに水が腐る。
水を捨てる。
花の茎もぬるぬるとしている。
それにやわらかい。
いやなにおいがする。
茎のまだ硬いところで切り、
花瓶を洗い、
新しい水を入れ、
花をもどす。
花の色が濁ってみえる。
花瓶も水も花もまたすぐに濁り、
腐ってしまうだろう。
来客があるころにはもう花はしおれている。





それは何年前の記憶だ?





蝉の抜け殻を集め、
床の上に置いていく。
やがて床は整列した抜け殻でいっぱいになる。
そのころには夏が終わっている。
蝉の声もやんでいる。
夏が終わったら抜け殻を埋める。
庭の隅に。
それはたとえば時間の墓標のようなものだ。
蝉が土の中で過ごした時間の、
暑かった今年の夏の、
墓標。

部屋の中は意外なほどしんとしている。
ひざを抱えて目を閉じる。
抜け殻にはまだ何か残っていて、
それが部屋に散らばっているらしい。
耳鳴りがする。
これは、
鳴きはじめのない蝉の声だ。




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