日々日記
いちらん…ふるい…あたらしい
2005年06月06日(月) |
この世で一番愛してる。 |
人生で一番悲しいと思うお別れを経験してしまった。
6月6日午後10時10分。
細長い宿場町の軒先にはいくつもの行灯が灯り、暗闇の中で中山道を照らし出す。 寒くもなく暑くもない風の中を、星のない空を見ながら二人で歩いた。
待ち合わせた直後、「歩こう!」と言ったのは彼。
二人でどこへ行くともなく、かつて手をつないで散歩した妻籠宿の街並みを歩いた。
いま、聞かなきゃ。と思って、 歩きながら、いつから別れたいと思ったのか聞いてみた。
「別れたくて、そう考えたんじゃないよ。」 「好きだから、考えたんだよ。」と言われた。
「ふーん」としか答えられなかった。
今夜、今まで彼が考えていたことがわたしに知らされると同時に、 わたしたちはお別れすることになるのをわかっていたから。
「でもさ、話してくれなきゃ。分からないってことが、一番悲しい。 一番苦しかった。」
「ごめんね。連絡をしないでおけば、そのうち嫌いになってくれるかなぁ って思ってたんだけど、誤算だった。 でもね、好きだから言い出し難かったの。顔を見ると言えなくなっちゃうから。」
とことこと、似たような背格好の二人が歩く。
もうすぐ長い長いお別れが来るという二人の置かれた状況が、 リアルに心を圧迫してきた。つらい。
何か言わなきゃ、と思いながらも、話しかけて忘れてしまった。 「だめだよ、歩きながら話すとわかんなくなっちゃうから、座ろう!」
わたしがそう言うと、彼はお寺の階段を手で払った。 「どうぞ」 わたしね、このしぐさ、知ってるよ。 この数ヶ月、わたしが好きになった彼はどこいっちゃったんだろうとずっと思ってた。
でもいた。 目の前に、なにも変わらずにそこにいた。
二人で座って、話す。 でも触れない。 もう触っちゃいけない気がして、彼も極力そうしないでいるのが分かったし。
子供さんのことを聞いてみた。 何があったのか。
離婚のしわ寄せは、結局は子供に行くんだなぁと思って聞いた。 「離婚して、一番わりに合わないのは子供だね」って言ったら、 「うん」と。
そして、寡黙な彼が話し始めた。
「僕は、貴女と一緒に暮らせないし、結婚もできない。 約束もできない。(子供のことが気になって、そういう気持ちになれないと いうことだと思う)このままずるずる付き合っても、 貴女にとっていいことは一つもないと思った。
でも、好きだから、会えばキスもするし抱きたくもなる。 でもそのあとで、これじゃいけないって思ってた。」
「それを話してくれて、二人で話し合っちゃだめなの?」
「話し合いをすると、妥協しちゃうでしょ。 それで僕が自分を騙して貴女と暮らしたとしても、結局うまくいかない。 自分を偽ってるから。」
「ほかの方法を考えちゃいけないの?」
「うん。」
「相談しちゃだめなの?」
「うん。」
「それで、ずっとメールくれなかったの?」
「うん。嫌いになってくれればと思ったのと、やっぱり迷ってたから。」
今彼がうんと近くにいる。 気持ちも限りなく近くにあるって実感できる。 でも、彼の覚悟が固いことはひしひしと伝わってきた。 彼は、わたしを手放しちゃうんだ。
「結局さ、わたしたちのことでがんばるのに、怖気づいちゃったんだね。」
「うん。そうかも。でもね、これだけは覚えといて。 貴女がメールで言ったように思ったことは一度もないよ。嫌いじゃなかった。 ずうっと貴女のことが好きだったよ。」
わたしはつぶやいた。 「…ひどい男だね。ひどいことするね。」 「うん。ごめんなさい」
「わたしが、うんとうんとあなたを好きだったこと、覚えててね。」
「うん、絶対。」
別れることは、承知してここに来ているから、と言って、 そのあともいろんなことを聞かせてもらった。 本当はもっと早く、聞きたかった、一緒に悩ませて欲しかったことばかり出て来て でももうどうしようもなくて悲しくなった。
もう、彼の人生にわたしが登場することはないんだ。
「帰りましょうか?」と言う彼に、 「もう二度と会えないんだし、わたしにとって、大好きなあなたと一緒にいられる 最後の時間なんだから、もう少しここにいなさいよ」 と言って、一緒にいてもらった。
「わたしはね、あなたの事情を知ったときから、どんなことを聞いてもおどろかな覚悟をしてたよ。わたしの覚悟と、気持ち、知ってた?」
「もちろん。知ってたから僕も真剣に考えた。」
だけどね、
彼はわたしを手放した。 彼はわたしと生きることに怖気づいた。 彼はわたしに誰かと幸せになれという。 わたしのこと、幸せにしてくれる男じゃないって思う。
そうも思うんだけど、 なんで別れなきゃならないのか、わたしは全然なっとくいかないの。 別れなきゃならないことは分かるんだけど、どうしてなのかが分からない。
どういうことだ?
でも、彼の気持ちは固い。 言うこときくことが、きっと今のわたしが彼に対してしてあげられる 唯一のことなんだろうな、って思ったらさ、 飲むしかないでしょう。
…嫌だけどさ。
最後はさっぱり別れようかと思ったんだけど、 逆光で「顔が見えないよう」と言ったら、するすると抱きしめられてしまった。
「だから、会うの嫌だったんだ」って言いながら。
忘れない。 きっとずっとずっと忘れられない。
スーツを着てネクタイを締めた胸元の感じ。 抱きしめた腕の力強さ。 髪や肩、顔、首をなでる手のあたたかさ。 ほほをあてた時の彼の肌ざわり。 わたしを見るときだけに見せる、甘くて優しいまなざし。 細い腰。
忘れることなんかできないよ。 だってさぁ、大好きだもん。大好き。
「長生きしてね。無理しないでね。元気でいてね。 おばぁになって、わたしが余ってたらもらってくれる?」
「多分ね、余らないよ。すぐ売れちゃうから」
抱きしめて、彼も泣いてる。
「このまま、部屋に連れて帰りたいくらい大好きです。」
「うん、知ってる。」
「何年もたって、まだ好きだったら、わたしはもう迷惑返り見ずにまた果敢にあなたに挑むからね。そのくらい、好き」
「うん。」
「ばかだな〜。ばかだよ。こんなに好きなのに、手放すなんて」
「うん。」
ずーっと、名残惜しい抱擁が続いたけれど、「じゃぁもう帰りましょう」と、 彼がわたしを180℃回転させて、肩を押した。
わたしの車の方角に向かって。
ああ、帰らなきゃならないんだ。 お別れなんだ。 どうしてもお別れなんだ。 なんで?どうして?どうしても?
もう、言葉にして出すことはできなかった。
車に乗ってから、手を振りながら、極力笑っていたら、 彼が手の甲にキスをした。2回。
わたしの好きになった人は、ずっとずっとわたしのことをうんと好きなまま、 わたしとお別れした。
帰りながら、帰ったあとも、泣いた。 母の前で、報告して、泣いて、部屋で一人になってまた泣いた。
悲しいから泣くんだけど、泣いてもどうにもならない。
泣いたってしょうがないと思うんだけど、眠れたかな?と思うと、 ふとした拍子に嗚咽が止まらなくなって困ってしまった。
これって、愛別離苦だ。 生きていると、愛することと、別れることの苦しみを味わう。 それを味わってしまったんだなー。
大好きだった。
ほんとにほんとに愛してた。
違う。過去形じゃなくて、 今も大好き。 ずっと愛してる。
んっとにもぅ、…切ないね。
inu-chan
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