TENSEI塵語

2002年02月15日(金) 福島千晴の歌手デビューに思う

きょうは予餞会だった。吹奏楽の出番と放送管理のため、バタバタしどおしである。
でも、吹奏楽の仕事も、かつてに比べれば何分の一かで楽になっているし、
生徒会の担当だったころからずっと舞台裏の仕事をしているけれども、
出演する生徒たちやスタッフの生徒たちとごちゃごちゃやっているのは、
授業よりもうんと楽しいものである。
思えば、自身の中・高時代も、こうして舞台裏にいることの方が多かった。
こういう場所の楽しみを覚えないと、学校生活のおもしろみは半減するに違いない。

さて、きょうの予餞会のプログラムの中には、
1月23日についに歌手デビューした福島千晴のステージも約20分あった。
ノーギャラサービスにもかかわらず、マネージャーの主張で、
音響スタッフを連れてアンプやミキシング装置をセッティングしての
手の込んだステージである。
昨夜は、このセッティングにつきあって遅くなったのである。

彼女は5年前に私が担任したクラスの生徒だった。
入学式で「誓いの言葉」を読み上げる役に選ばれたのは成績のためだが、
同じ理由で、とりあえずクラスの室長もやってもらった。
文化祭でも自らアイデアを出して、優秀作品をクラスで作り上げた。
翌年、私が生徒会主任になって担任を外れた年には生徒会長をやっていた。
1年生の時から、有志出演はそのころはまだなかったにもかかわらず、
予餞会に出演させた。生徒会執行部代表ということで。。。
「お前なら歌ってもいい。歌え」と言って、承諾させた。

最初驚いたのは、入学後1週間ほどで行われた校外合宿のバスの中だった。
バスガイドが「何かみんなでやって行きたいこと、ありますか〜」などと
よけいなことを生徒に問いかける。
すると、あのころはたいてい、カラオケ〜〜、となってしまうのだった。
私はカラオケを歌うのも聞くのも、忌み嫌っていた。
歌うのが嫌いなのは、私の声では絶対音域が合わないからであり、
聞くのが嫌いなのは、下手な歌を聞かされるその暴力性のためだった。
店やバスの中でむりやり聞かされるのはたまったもんじゃない、
そういうのにはもううんざりしきっていた。

その時も、予想される展開に、早々と睡眠モードに入り、
ガイドの説明から問いかけ、そしてカラオケに決まる過程が、
睡眠にだんだん近づきながら、我関せずのまま、ただ聞こえていた。
ところが、最初に歌い始めた福島千晴の歌で、ぱっと起こされてしまったのである。
それまでにも、この子の歌味があるな、とか、なかなかうまい、というのはあったけど、
それとはまったく較べものにならないうまさを感じたのである。
「津軽海峡冬景色」だったと思うが、メロディーによって3、4種類の声色が聞こえる。
ただカラオケを楽しんでいるとは思えないほどの歌いっぷりだったのである。
そのあと、3、4人が歌ったけれど、幸いにもかえって盛り上がらなくなった。
トップバッターがあまりにも意表を突いたので、他の連中が歌いづらくなったのだ。
SAの休憩の時に何人かに聞いてみたら、「何これ、と思っちゃったよね」などと、
やはりみんな一様に感嘆していた。

それから自己紹介や面談によって、子どものころから歌手志望で、
歌のレッスンに通い、いろいろな大会に出て入賞していることがわかった。
母親とも話してみると、母親もまた、それに熱心であることがわかった。
私は、プロの歌手というものは、歌がうまいだけでもダメで、
さまざまな要素を求められるから難しいだろうと思いながら、
応援したし、オリコンに勤める友人にも相談したりした。
いくら難しい夢でも、夢というものは、同じ挫折するのでも、
挑戦しないで挫折するよりは、挑戦した上で挫折した方がいいし、
挑戦しない限りいつまでたっても実現の希望は生じないからである。

デビューすると聞いたときには驚いたし、ホントにいいのか、などと危惧もしたけれど、
どんなに小さいデビューであれ、母娘の長年の夢を実現した事実は、やはり祝福したい。
きょう、デビューCDを5枚買ってやった。
市吹の長老たちに、注目してやってね、いいと思ったらお仲間にも聞かせてやってね、
と言いながら、配ってやるつもりである。
このCDは、悪くない、なかなかいい。だから、迷惑にはなるまい。

彼女のプロになるための欠点のひとつは、まじめで硬い、というところなのだが、
そうだったからこそ、かえって応援してやりたくもなるのである。
昨日、喫煙室でも話題になったのだが、マネージャーの言葉の中に、
「母校に呼ばれて歌う、なんてことはあまり例のないことだから」というのが
あったそうで、それを聞いて私は、「たいていのタレントは、
母校でろくなことしてないからじゃないの」と言って同室者に笑ってもらっていた。
・・・心配なのは、硬さがデビューしたての歌にも表れていることだ。
あのころのような、柔軟な声色は聞けない。その点は残念である。


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