韻文苦手の私にも、いくらかは好きな和歌・短歌・俳句があるように、 ほんのいくつか、文句なしに好きな詩はあるのである。 桜を眺めているときには、時折、無意識に、心の奥で、 三好達治の「甃のうへ」の流れるような断片が響いていたりする。 それが、桜のある風景に奥行きをもたらしているのかもしれない。
あはれ花びらながれ、 をみなごに花びらながれ、 をみなごしめやかに語らひあゆみ、 うららかの足音空にながれ、 をりふしにひとみをあげて、 かげりなきみ寺の春をすぎゆくなり。 み寺の甍みどりにうるほひ、 廂々に 風鐸のすがたしづかなれば、 ひとりなる わが身の影をあゆまする甃のうへ。
・・・こうして改めて書いてみると、 何というリズム感、何という美しい響き、何という映像美であろうか。。。
そういえば、この三好達治には「雪」というたった2行の詩もある。
太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。 次郎を眠らせ、次郎の屋根に雪ふりつむ。
この限りない静かさ、無限の空間性、そして、限りないやさしさを、 たった2行の何の変哲もない言葉で表現しうるほどの詩人である。
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