| 2002年10月03日(木) |
宮本輝「オレンジの壺」 |
題名からは想像もつかない壮大なドラマだった。 何しろ、「オレンジの壺」とはオレンジの入った壺でもオレンジ柄の壺でもなくて、 秘密結社の一員の暗号名なのだから。。。
ヒロインの田沼佐和子は、冴えない女として意図されている。 離婚の際、夫から、お前には悪いところもない代わりにいいところもない、 「女としての魅力も人間としての味わいも皆無だ」と言われたほどつまらない女である。 けれども、それほどつまらない女として感じられるほど描かれていないのが この作品の数少ないキズのひとつである。
その佐和子が、離婚の痛手から抜け出せるようにと父親が事業を興すことを勧め、 それをきっかけに、遺言で託された祖父の日記を読むことから、佐和子の変貌が始まる。 日記に書かれた祖父の第二次大戦前の若き日の記録は謎に満ちていた。 その謎の解明のためヨーロッパに飛んだ佐和子に、新しい事実がまた現れる。 明らかになるにつれて、また、謎もいっそう深まる。 息詰まるような緊迫感がある。
大戦の傷跡は癒えることがない、というモチーフがくり返し語られる。 それを我々は主に対中国との諸問題でしばしば痛感させられるのだが、 あの時勝った国・負けた国にかかわらず、ヨーロッパでもやはり同じなのだと この小説は教えてくれる。
宮本輝の小説は、人間の悲しい性というものを全編に漂わせる。
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