TENSEI塵語

2008年12月08日(月) 警察小説に泣かされた

「半落ち」に次いで2回目かな?

誉田哲也(聞いたこともなかった)の「ストロベリー・ナイト」は、
全体的にはたいへん不快で怖ろしい話だった。
事件が実に猟奇的な連続殺人事件なのだし、
しかもそれが会員制の殺人ショーなのだし、
そのショーというのが、、、いやいや、この話はまたの機会にしよう。

しかし、この作品のちょうど真ん中あたり、
213〜228ページのあたりで、2度泣かされた。。。

ヒロインの、美人で勘の優れた警部補姫川玲子が、
作者のイメージの中で菜々子さまにキャスティングされているそうなので
ついつい私もそのつもりで読まされてしまったのだった。
この言葉遣いはちょっと、、?? というところもあったけれど、
大方は菜々子さまのイメージで読むことができた。
そうなると、ちょっと感情移入してしまうのかもしれない。。

その真ん中あたりで、捜査の物語からは少しの間離れる。
捜査本部が1日休暇となり、玲子が実家に戻って、
母親の入院のことから妹との諍いになり、玲子の過去の物語。。
結局は、玲子が警察官を志す動機の物語なのだが。。


玲子は高校時代に夜の公園でレイプに遭った。
「ただ自分がどうしようもなく汚れ、思い描いていた未来を
 失ってしまったという絶望だけが、玲子の心を占めていた。
 体の中に、あの便所裏の土が、一杯に詰まっている気がした」
しかもそれが自分だけの問題でなく、
刑事事件としての事実もつきつけられ、助けてくれた警官をさえ憎む。

病室には毎日佐田倫子という巡査が訪ねて来た。
いろいろなお土産を持参し、いろいろなことを話しかける。
事件のことはまったく触れずに、毎日通ってくる。
玲子はなかなか心を開かないのだが、通ってきて話しかける。
しばらく経ったころ、捜査への協力を頼んだりもするのだが、
玲子の拒否であっさりとそれを尊重し、また通い続ける。。。


玲子の方が徐々に佐田に協力して事件と向き合おうと思い始めた時、
佐田は、このレイプ事件の犯人逮捕に際し、殉職。。。
その母親が玲子の病室を訪れ、佐田の日記を玲子に渡す。
日記は佐田倫子の独り言である。
この日記が、かなり泣かせてくれた。
長いから引用まではしないけれど。。。


佐田の日記に勇気づけられた玲子は、戦いに挑む、、そして裁判。。
しかし、弁護士は言う。
「必死で抵抗したにしては擦過傷が少ないが、
 実は合意の上での性交渉だったのではないか」
「つまりあなたは、被告人にレイプされたのではなく、
 行為を迫られて、すぐに合意したのだと考えられる」

玲子は弁護士の意外な言葉に怯む。
(私も、こういう類の話を読んだりするたびに、
 弁護士の仕事っていったい何なんだろうと疑問になったりする)
法定内のすべての人が、自分を汚れた女に見ているように思われる。
しかし、心の中で佐田の声が聞こえて、自分を取り戻す。

「擦過傷が少なかったら、どうして受け入れたことになるんですか。
 ナイフで脅されて、口を塞がれて、力で無理矢理押さえつけられて、
 それでどうして合意の上だなんていえるんですか。
 暴れたらまた刺されるんじゃないか、殺されるんじゃないか、
 そう思って抵抗を諦めると、
 どうして行為を受け入れたことになるんですか。
 あなたの理屈でいえば、命を張ってその男を捕まえた佐田さんも、
 殺される覚悟をしていたわけだから、だから殺してもよかったんだと
 合意の上で殺されたんだと、そういうことですか!
 そんなことあるわけないじゃないの!
 あなたには奥さんはいないの? 
 恋人とかお姉さんとか妹とかはいないの?
 その人が私と同じ目に遭っても、あなたは本気で、
 合意の上だったんだろうなんて言えるの?
 あなたは佐田さんに、覚悟があったんだから死んでも文句ないだろう
 なんて、面と向かっていえるの?
 佐田さんの家族に、いえ警察の人全員に、死んでも文句ないだろう
 なんて、本気で言う覚悟があるのかって訊いてるのよ!!」

おー、玲子、よく言った、、とまた泣けてしまったのだが、
作家は、その場をさらに盛り上げた。
傍聴席にいる何十という警察官が、みな起立して玲子に敬礼している。。

玲子はその結束した敬礼の重みに圧倒され、
その「温かい波動」に打たれ、心の中の佐田の存在を支えに、
警察に入り、警部補を目標に生き始めるという回想の物語。。

殺伐とした物語の、オアシスのような2場面だった。


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