2008年12月09日(火) |
未知の世界を垣間見る |
小説など読む楽しみのひとつは、 日ごろの自分の生活とは違った世界に入り込むこともあるのだけど、 「ストロベリー・ナイト」が見せてくれた世界は、強烈だった。 現実にあるとは思えず、しかし、 似たような仕組みのもの(モデル)が実際にあるかもしれず、 ひょっとしたら、こののんびり楽しんでいるインターネットの、 ほんの数クリック先に怖ろしい扉が待ってるかもしれず、、、 遠い世界のようで、すぐ近くの世界なのかも知れない。。
物語の事件は、傷だらけの変死体が見つかったことから始まる。 やがて、もう一体。 この2人の男の生前のつながりは見えて来ないが、 共通するのは、ある時期から並はずれて仕事に意欲的になったこと、 そして、毎月第2日曜日の夜に何か秘密がありそうだということ。。
姫川玲子の部下の大塚が、被害者とつきあいのあった田代から 被害者が口にしていたストロベリー・ナイトという言葉を聞きだした。 インターネットで検索するとそういうサイトが現れるわけでなく、 掲示板に、それについて噂が書き込まれていた。 殺人ショーの写真が公開されているサイトだという話である。 毎月第2日曜日の夜に。。
実は、そのサイトは、田代が先に見つけて被害者に教えたのだった。 田代はそのサイトを偶然見つけた。 リアルな殺人映像に興味をもち、 「これを生で見たいですか」のメッセージに 冗談半分で「はい」をクリックした。 それだけで、半月後に、黒い封筒の招待状が届いた。 切手も住所もない田代様だけの封筒だから直接郵便受けに入れたらしい。
・・怖ろしい話だ。 「はい」のボタンを押しただけで、住所・氏名をつきとめる。 さらに中には、田代の生年月日、本籍、勤め先、家族の名前、 そして、田代の顔写真まで入っている。 「間違いがないかお確かめください。間違いのない場合、 ご本人であると判断して会員登録が完了します」 ・・・ぞっとする話だ。
田代は行かなきゃ殺されると思って、ショーに出かけて行く。 入場料は10万円。 招待状を受け取った客は、それぞれの指定時刻に入って行く。 この入り口で、ひとりが生贄として捕らえられて、 その夜にステージで殺されるのだと言う。。
・・・読みながら、息が詰まるほど怖い話だった。 ちなみに、このストロベリー・ナイト・ショーの開催者は、 警視庁のキャリアの新入りだった、なんて話でもある。 その開催者(=犯人)が一緒に捜査に加わっているのだから、 玲子の部下の大塚は殺されるし、玲子自身も危険な目に遭うことになる。
さらに怖ろしかったのは、この、未知の心の世界である。 田代が語る。 「それに気づいたときは、そりゃ怖かったですよ。 でもね、それでもまた行きたいと思いました。 いや、むしろ強く欲するようになった。 きょう、自分が舞台に上げられてしまうかもしれないと思っても、 行かずにいられなくなりました。 あの、無事会場入りできたときの安堵。 自分がなったかも知れない、その生贄が、目の前で、 ズタズタに引き裂かれて、血だるまになって殺される。 それを見る、この上ない優越感。 自分はきょうも生き残った。 また明日から、少なくとも1ヶ月は生きられる。 その、無上の喜び。 自分の生が、惨たらしい死と隣り合わせなのだと実感する、 その充実感。。。 素晴らしいですよ。世界が拓けて見えるようになるんです」
何という異常な、、、作者も、この話を聞いている勝俣という刑事に 「完全に精神が破壊しているとしか思えない」役を与えている。 しかし、この異常な状況は確かに狂っているのだけれど、 私はつい、ここにハイデガーの「死への先駆的な覚悟」というような 懐かしい言葉を思い出して重ね合わせてしまった。
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