TENSEI塵語

2008年12月29日(月) 首相暗殺事件の容疑者の物語

第21回山本周五郎賞受賞
第5回本屋大賞受賞
'09 年度「ミステリが読みたい」第1位
'09 年度「このミステリがすごい」第1位、、4冠

・・・という宣伝文句に負けて、
伊坂幸太郎「ゴールデンスランバー」を読んだ。
首相が暗殺され、その容疑者に仕立てられた青柳雅治の逃走劇。
何が何だかさっぱりわからないままに、
国家の反逆者として追われる身となる恐ろしさ。。

前置きが長くて、100ページほど読まないと逃走劇は始まらないし、
回想シーンが何度も現れて、物語の進行がストップすることが多いし、
途中まではちょっと読みにくいな、、と思いつつ、、だったが、
だんだんと回想シーンの意味があちこちに結びついて、
最初は邪魔くさく思われた回想シーンもちょっと楽しみになってきた。

先日の「グレイヴディッガー」もそうだったけど、
国家権力の介入する捜査の恐ろしさを感じさせられた。
雅治をいったん捕らえた警察庁の佐々木はこう冷ややかに説得する。
「君に今できる唯一最善のことは、自首をし、すべてを認めることだ。
 私たちは、君がやったことをわかっている。
 だから、君はそれを認めればいい。
 そうすれば、おそらく、君も、君の家族も(友人、知人も)
 被害は最小限で済む。
 怖がることはない。私たちに任せれば、大丈夫だ」

何もやってないのに、こんな風に言われたら混乱するだろうなぁ。。
こんなことが実際あるのかどうかは、体験してないから知らないけど、
こんな風にしてでっちあげられたような話はいくつか聞いたことがある。
この場合は、早々と解決して手柄をあげたいからか、
最初からでっちあげとわかってるから、自首させるしかないからか。。


雅治の父親がTVカメラに囲まれて話す場面に泣かされた。
(痴漢を見つけると駅のホームに引き出して馬乗りになって殴る
 ような〈正義の人〉である)
「お前ら、雅治のことをどれだけ知ってるんだ?
 俺は生まれたときから知ってるぞ」から始まる。
「いいか、俺は信じたいんじゃない、知ってんだよ。
 俺は知ってんだ。あいつは犯人じゃねえよ」
取り巻くレポーターたちは大騒ぎ。。。
マスコミは、犯人は雅治でなきゃいかん的に報道しまくっているのだ。

「正義の味方のお前たち、本当に雅治が犯人だと信じてるなら、
 賭けてみろ。金じゃねえぞ。
 何か自分の人生にとって大事なものを賭けろ。
 お前たちは今、それだけのことをやっているんだ。
 俺たちの人生を、勢いだけで潰す気だ。
 自分の仕事が他人の人生を台無しにするのかもしれねえんだったら、
 覚悟がいるんだよ」
レポーターたちはますます大騒ぎ。。
そして、カメラに向かって雅治に呼びかける。
「こっちはどうにかするから。お前もどうにか頑張れや。
 まあ、、、ちゃっちゃと逃げろ」


結局、雅治は逃げたままで終わり、真相は何もわからず、
不幸な結末の物語なのだが、逃げられただけでもまだましな方、、、
しかし、ラストシーンは、さりげない「たいへんよくできました」の
清涼な幕切れ、、、おみごと!!
元恋人晴子と雅治の、それぞれの思い出の中での交流劇の、仕上げだ。


読み終えてから、第2・3部を読み返したらおもしろかった。
特に、第3部の「事件から20年後」のレポートは、
今の日本の政局や、アメリカ大統領暗殺の懸念などを重ね合わせると、
いろいろな想像ができておもしろかった。
せっかく民主党がやっとこさ政権をとっても、
若手の対抗馬が突然出て、首相の座を爺さんから奪うかも、、とか、
与党が支持母体の権益(道路財源とか?)をおろそかにすると、
どんな目に合わされるかわからないものだなぁ、、とか、、いろいろ。

事件がでかく深刻なわりに、軽い調子で読むことができ、
軽いわりには随所になかなか鋭い社会批評が盛り込まれていた。


 < 過去  INDEX  未来 >


TENSEI [MAIL]