メール - 2001年05月17日(木) 「ごめんね。・・・ごめんね。」 「・・・。」 「ずっと待ってくれてたんだ、電話。」 「・・・。」 「メール読んだよ。」 「・・・。」 「・・・ごめんね。・・・ほんとにごめんね。」 あの日、壊れたわたしは魔女みたいに伸びた爪をキーボードに立てて、あの日の日記の半分から下をコピー・ペーストしてメールで送った。やっちゃいけないことだった。メールはもう禁止。夫にもあの人の彼女にも絶対バレないようにって、あの人が決めたルールだった。 いないあいだに届いたメール。きっと怒ると思ってたのに、怒らずにいてくれた。 電話をかけられなかった理由は、なんでもなかった。それは、日本に帰る日にやっとかけてくれた電話で話してくれてた。なんでもない理由だったけど、理由なんて関係なかった。あの時、壊れてしまったわたしは上手く喋られなくて、聞きたいことも聞けなくて、包みこむような優しいあの人の言葉をただただ、聞いてた。返事をしようとすると、なま温かい涙がかたまりになって溢れ出して、上手く返事も出来なかった。 今日もおんなじだった。拗ねてたんじゃない。意地張ってたんじゃない。あの人の「ごめんね」は、まやかしでもご機嫌取りでもなくて、心臓のため息にさえ聞こえた。だけどわたしは、やっぱり上手く返事が出来なかった。差し伸べられた手にすがりつきたいのにすぐにはすがりつけない、捨てられて傷ついた子犬みたいだった。あの人はわたしがちゃんと応えられるまで、差し伸べた手を引っ込めずに辛抱強く待ってくれた。 「絶対会いに行くから。もう信用できないかもしれないけど、真剣に計画立ててるんだよ。9月には休みが取れるんだ。」 「・・・もういいの。」 「もういいって? 会ってくれないの?」 「ずっと・・・ずっと同じこと言ってる。」 「待ってて。今度こそ約束ちゃんと守るから。」 「・・・そんなに待てない。」 「待てない? じゃあ、きみは待たなくていいよ。でも僕は行くよ。ね。」 「・・・。やっぱり待つんじゃない。」 「そっか・・・。でもね、会いたいんだよ。今までだってずっと会いたくて、それでもどうしても都合がつきそびれちゃったんだ。今度こそ行くから。信じててって言うしかない。」 信じられないんじゃなくて、会いたいって言葉を疑ってるわけじゃなくて、もう待ちくたびれちゃったの。会いたいよ。会いたい。これっきり会えなかったら、どうにかなっちゃう。だけどもう待ちくたびれすぎちゃって、・・・ただそれだけ。 送ってくれた誕生日のプレゼントも、届かないまま。まだずっとずっと待ってる。次に電話をかけられる日も、切ったその瞬間から待っている。 「おみやげ、送るから待ってて。」 また待つの? 待ってばっかり。待ってばっかり。 「念のためもう一回、住所ちゃんと教えてよ。前も住所は間違えてなかったと思うんだけど。ね、メールに書いて送ってくれる?」 メール、送っていいの? 「・・・返事、くれる?」 「いいよ。送るよ。返事するよ。」 優しい声が笑ってた。メールを出したら、前に戻ったような気がして、嬉しかった。待ちくたびれたこころが少し楽になった。 ーまた魔法をくれた? -
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