天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

手を伸ばして - 2001年05月22日(火)

お母さんが倒れた。診断名を聞くと、大変な疾患だった。「もっとちゃんとわかったら言うから、病気のこといろいろ教えてくれる?」。 あの人は言ってたけど、もうその危険さも深刻さもわたしは知っている。

あれから何日か経った。
まだはっきりいろんなことがわからないらしい。ただ、入院期間が延びたという。大変な病気ってことはあの人もわかってるみたいだけど、詳しいことがわからないだけによけいに動揺してる。日本の病院のシステムをよく知らないから、何とも言えない。だけど、ここだと入院して3日以内には検査の結果もすべてわかって本人にも家族にも知らされるのに。

「いつもケンカばっかりしてるけど、今度ばかりはさすがに心配だよ」ってあの時も言ってた。

落ち込んでるときも、あんまり声に表さない人。何かあったら何でも話してくれるけど、わたしが心配しちゃうことの方を先に気にするような人。「自分でごはん作んなきゃいけないから、困るよ。いつもあったものがないからさ」なんて冗談めかして言ってる。だけど、動揺が伝わってくる。

「ごめんね。今日はアメリカの話、いっぱい聞かせてあげようと思ってたのに。」
「何言ってんの。そんなのいいよ。謝んないで。」
「ごめん。なんか暗いよね。今度いろいろ話すからね。おもしろいこといっぱいあったんだ。」
「バカ。謝んなくていいったら。それどころじゃないじゃん。」

「きみは土日、どうしてたの?」「へえ、ボストンってそんなおっきいんだ」「誰と行ったの?」「何時間くらいかかるの?」「車、大丈夫だった? 前みたいに止まらなかった?」。そうやっていつもみたいに、話せなかった間のわたしのことをいろいろ聞いてくれたけど、最後に「ごめんね」を繰り返してた。

電話を切る前に名前を呼んだら、「今度の電話のとき、いっぱいしてあげるよ、今日の分まで。ごめんね、なんか今はまだ動揺してる」って言った。
わかってるよ。違うの。名前を呼んだのは、そうじゃないの。
「いいの。あたしがかわりにしてあげる。」
少しだけ時間をおいたら、あの人が言った。
「して?」

わたしは目を閉じて、できるだけ、できるだけ、心をこめて、電話の向こうのあの人に音をたててキスをした。

「ぐっすり寝られそうだよ。」


こんなとき、そばにいてあげられるのはわたしじゃない。ごはんを作ってあげられるのもわたしじゃない。今あなたが欲しいのはきっと、すぐそばにある柔らかい腕の中。心細さと不安を忘れさせてくれる、慣れた体温。わたしの知らないその人との甘くて狂おしいひととき。

どうして離れているんだろう。どうしてわたしじゃないんだろう・・・。


手を伸ばして、わたしの方に。目を閉じて。両手で受け止めて。届けてるの、あなたに。わたしの温もりがわかる? 温かい体ごとであなたを抱きしめてあげられないけど、それを出来るのはわたしじゃないけど、こんなにこんなに遠くからでも届く愛もあるんだよ。こんなに離れてても、途中で消えずに、ほら、ちゃんと届くでしょう? 感じて。もっと感じて。心の震えが止まるまで、ずっと送り続けてあげるから。


手を伸ばして、受け止めて。

わたしに出来ること。

わたしにしか出来ないこと。








-




My追加

 

 

 

 

INDEX
past  will

Mail