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「ねこふんじゃった」 - 2001年06月20日(水) 電車に乗って、一緒に楽器やさんに行ったね。 車がビュンビュン行き交う道路をあなたは平気でジェイウォークするの。 手を引いてくれないから、わたしはひとり道路のまん中に取り残されて、 車の流れが切れるまで、泣きそうになりながら待ってた。 歩道にたどり着いたあなたは、わたしを振り返ってちょっと驚いた顔したけど、 わたしが道路を渡り切ると、にっこり笑って、またひとりでさっさと歩き出した。 ーなんで? タクシーを降りるときには、手を貸してくれたのに。 あなたは器用に人の合間をぬいながら、どんどん早足で歩いてく。 わたしは人波に上手く乗れなくて、誰かとぶつかりかけてばっかり。 立ち並ぶお店の一軒に、突然あなたが吸い込まれて消えた。 そっか、ここに来たくて気がはやってたんだ。大きなビルの楽器やさん。 エレベーターでふたりっきりになったすきに、あなたはほっぺたにキスしてくれた。 何を買いに行ったんだっけ? 何か大事なものが要ったんだよね。 なのにあなたはキーボードに釘付け。 あなたの指から手品みたいにメロディーが生まれる。 「何の曲?」って聞いたら、「今僕が作った」って笑った。 「きみも何か弾いて?」「弾けないよ。」 「『ねこふんじゃった』でもいいよ」「あ、じゃあ、あなたが弾いて」。 わたしが違うパートを弾いて、楽器やさんで『ねこふんじゃった』連弾しちゃった。 でもあなたって、『ねこふんじゃった』を途中までしか知らないの。 「それ、教えてよ。どうやって弾くの?」。 わたしが弾いたパートのメロディーを、あなたはすぐに覚えて弾く。 だけどそのあとパートを変えて連弾したら、上手く行かなかったね。 わたしが、覚えたてのちょっとぎこちないあなたの指の動きに合わせようとしたから。 今わかった。勝手に合わせちゃいけないんだ。 そういえば、あのときあなたは言った。 「だめだめ。ちゃんと普通のテンポで弾いて。僕に合わせちゃだめ」。 ちゃんとどっちかが常にしっかりしてなくちゃ、両方ともダメになっちゃうんだ。 あなたはいつも強い人。決して自分のペースを崩さない人。 だから続けられてる。 やめたほうがいいかなって時々思う関係、あなたの強さに守られてる。 わたしを置いてきぼりにした、あなたのジェイウォークも。 あのときあなたがわたしの手を取ってたら、恐がるわたしが足手まといになって、きっとふたりで道路の真ん中から動けなくなってた。 あなたはひとりで行ってしまったけど、あとからわたしが渡り切るのをちゃんと向こうで見届けて、微笑んでくれたよね。「もう大丈夫だね」って。 あのジェイウォークは、あなたの結婚? ひとりで行ってしまうね。 でもまたちゃんと、振り返ってくれるの? 大丈夫かどうか、確かめてくれる? そして、あなたにもう一度追いつけた時には、「ほらね」ってキスしてくれる? あのときみたいに。 『ねこふんじゃった』、この次はきっと上手く行くよ。 曲のつづき、教えてあげる。今度は、最後まで一緒に弾きたい。 いつかまた一緒に弾けるのかな。 -
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