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烙印を押された奴隷 - 2001年07月28日(土) 「大好きだよ。大好きだから、もとのきみに戻って」。 電話を切る少し前に、そうあの人が言ってた。 「明日の朝、仕事に行く前に電話して。待ってるから。」 そうも言った。 朝電話したら、「大丈夫?」って聞かれた。全然大丈夫なんかじゃなかった。大丈夫じゃないふりも出来なかった。 行きの車のなかで、いつも聴く FM のステーションがつまらなかったから、Duran Duran を聴く。でも、辛くて聴けなかった。つまらない FM に戻す。ほかのステーションにカチャカチャ合わす。どれもつまらない。渋滞で隣り合わせになった 赤い2ドアの BMWに乗ってた人がかっこよかった。じっと見つめてたけど、あっちが先に進んでしまった。こっちのレーンが進んでまた隣り合わせになったら、またじっと見た。それを繰り返してた。 明日はお休みだと思うと、寝不足でも仕事は大丈夫だった。仲良くなった同僚とおしゃべりするのも楽しかった。刑務所病棟も、腎臓透析クリニックも、頑張った。 帰りの高速で、また Duran Duran を聴いてわざと自分を苦しめようと思った。やっぱり辛すぎて、出来なかった。 帰ったら、電話をかけることになってる。かけるのが嫌だった。あの人の時間の朝8時から9時の間にかけてって言ってた。うちに帰ったのは7時半だった。ベッドに身を投げ出したらうとうとして、電話の音で目がさめた。8時過ぎだった。 「おそーい。遅いから心配してかけたよ。」 「・・・なんで? 8時から9時の間って言ったじゃん。」 「え? そうだった?」 いつもみたいに話すあの人。 いつもみたいには話せないわたし。 「昨日もうやめたほうがいいって言って、ほんとにやめようかと思ったけど、電話切るころにはやっぱりそんなこと出来ないって思ってた」。朝の電話でそう言ったあの人。 「やめる」って言葉に恐怖心を抱いて、それからまだ抜け出られなかったわたし。 それでもこころが溶けていく。 溶けていく。 話をしているうちに、どんどんほどけていく。 「月曜日の朝に電話する」。 そう言われて、もうそれまで待てなくなってる。 どんどんほどけていったこころに、ちっちゃな結び目がひとつ残ってる。「やめる」って言葉が作った結び目。結び目は烙印。 わたしのこころはあの人の奴隷。自由がきかなくて苦しんでると思い込んでるけど、飼い慣らされた状態にほんとは満足してる。烙印を押されて、解き放たれることのない奴隷。もう、絶対離れられない。 -
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