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どうしようもない - 2001年08月21日(火) わたしはあの人に意地悪した。「もういいの。もうあたし死んじゃう。バイバイ」。そう言って電話を切ったらすぐにまた電話が鳴った。出ないでいたら、留守電に切り替わってあの人の声が聞こえる。「お願いだから、電話に出て。お願いだから、頼むから」。それでも出ないでいる。また電話が鳴る。電話を取ると、あの人は泣いていた。子どもみたいにしゃくりあげて。「お願いだから、言わないで。死ぬなんて言わないで。お願いだから、そんなこと言わないで」。わたしは驚きもせずに、そんなあの人をなだめてる。「言わないよ。もう言わない。もう死ぬなんて言わないから。ね」。うん、うん、って子どもみたいな返事と一緒に、あの人のしゃくり泣きがおさまっていった。わたしはごめんなさいが言えない。 「泣いたりして、イヤんなった? 嫌いになった?」 「ならないよ。嫌いになんか。」 ならない。絶対になれない。どんなあの人もわたしにはあの人。どんなあの人も不思議じゃない。あの人の血が緑だったって、わたしはきっと驚かない。まるで最初から知ってたみたいに。そしてその緑の血だって好きになる。 「ひどいこと言ったよ。僕はきみに償う。もっときみに優しくする。」 それ以上どうやって? ひどいのはわたし。ひどい女。ぐじゃぐじゃの自分をぶつけるのが気持ちいいだけかもしれない。拗ねて意地悪言って、機嫌をなおしてもらうのを待ってるだけなのかもしれない。最低な女。 「出逢うのが遅かっただけ」っておととい言ってた。そんな悲しいこと言わないで。わたしはそうは思ってない。もっと早くに出逢うなんてあり得なかったこと。夫を愛したことも、幸せじゃなかった日々も、わたしには大切な過去。それがなくてあなたに出逢うなんて、わたしには考えられない。第一、あの娘が死ななかったら天使は舞い降りて来なかった。それにこんなわがままで意地悪でオカシナ女、「彼女」だったらとっくに手に負えなくてあなたは嫌気がさしてる。「彼女」じゃないから、それでもあなたは愛してくれるの。 今日は言った。「おとといのことは取り消し。僕はやっぱりきみが一番大事だよ」。「うそばっかり」「うそじゃないよ」。「うそじゃん」「なんでうそって言うの? うそじゃない」。 いいんだよ。わたしはもうちゃんと受け止めてるよ。 「大丈夫よ、元に戻れる。」 「元に戻らなくていいよ。僕が違うきみにしてあげる。」 ーきのう半日くらいずっと考えてた。きみを傷つけた言葉はもう消えない。どうしたらきみが明るいきみに戻れるかって。でも戻らなくていいんだよ。僕がきみを変える。「きみが一番大事」。あの人は繰り返す。いいんだってば、もうそれは。 日曜日も出勤だったから、今日はその代休だった。 平日にしか出来ない用があって、シティに行った。人込みを歩きながらずっと考える。あの人の言葉をひとつずつ思い出す。雑踏を押し分けて、いつもより歩幅を大きくして、しっかりした足取りで一生懸命前に進むと、ちゃんと分かってくる。あの人の言葉の意味の大きさが。 わたしはほんとにバカ。どうしようもない、どうしようもない大バカ。今までも思ったけど、今日ほどそう思ったことはない。やっとわかった? そう。だから自分で変われる。強くなんかなれない。でも、もう少しマシになる。あの人を困らせても、もう悲しませないようにする。 うちに帰ってすぐに電話する。「待ってたよ。留守電聞いた?」。ほんとだ。入ってる。「チュウチュウチュウ」って、ねずみ? 「僕がきみを変える」ってこれ? まさかね。でも可笑しくて、嬉しくて、明るいわたしになった。 -
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