天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

デート - 2001年08月25日(土)

仕事が終わって、ハンサムドクターのアパートにひとりで向かった。
西日が眩しかった。サインが反射して見にくいから、ジャンクションを間違えそうでハラハラした。

シティにある大学病院の、インターン用の大きなアパート。「住人のような顔をして入っておいでよ」って言われて頑張ったのに、セキュリティーのおじさん二人に捕まった。病院の ID を預けさせられて、悪いことしてるような気分になった。

ドアをノックすると、「早かったね。ちょっと待っててくれる?」って言われて、お部屋でボサノヴァをかけてもらって待つ。地下鉄に乗って、イタリアンフードを食べに行った。この前の電話で、食べる物は何が好きかハンサムドクターは聞いた。「パスタ。チキン。シーフード。あと、チャイニーズ、シンガポーリアン、ヴィエトナミーズ、タイ。スペインのスパニッシュ、中南米のじゃなくて。それから甘い物」。それで、イタリアンに決まった。すごくおいしいとこがあるというビレッジまで行く。パティオに席を取って、サンドライドトマト入りのファシーリと、リングィーニを添えた詰め物したマスを、ふたりでシェアする。ウェイターが延々と並べ立てた今日の特別料理の中から、わたしはストロベリースープってのも注文した。甘くていちごムースみたいで、でもスパイスが効いててアルコールも入ってて、不思議なスープだった。「これおいしい。食べてみて」っていうと、ハンサムドクターはスプーンでひとすくいだけ食べて、「おもしろいね」って言った。

「きみ、体重いくらあるの? 100ポンドもないだろ?」
「ないよ。一ヶ月まえの採用の身体検査のとき、83ポンドだった。洋服着て靴履いて、だよ。軽すぎるの。あれから増えてると思うけど。なんで?」
「ちっちゃいのにものすごい食べるなあと思って。僕よりたくさん食べてるよ。」
「うん。だっておいしいもん。もう苦しいくらいおなかいっぱいなのに、まだ食べたい。」

ドクターとはなぜかとても自然に話が出来た。「ヤなやつ」と思ったハンサムな顔からの印象はもうなくなってて、昔から知ってる友だちみたいに気を使わないで普通でいられる。レストランを出てから、だんだん人が増えてくる夜の中をを歩く。なんとなく目についたバーがおもしろそうで、なんかいいねって言ったら、入ってみる? ってドクターが言って中に入る。わたしはお酒をあんまり飲まない。アルコール分解酵素が欠乏してる。だから、ちょっと飲むと真っ赤になって心臓がどっどどっどして、眠くなるだけ。そしてなぜかエッチな気分にはなるから、女友だちとは飲んでも男友だちとは飲まない。「甘くてフルーティでアルコール入ってないやつ」って注文して、ドクターはビールを3杯飲む。他愛ない話も真面目な話もいっぱいする。素敵なドクターと話すときより、ずっと話しやすかった。

「ボーイフレンド、いるの?」って聞かれた。しばらく黙ってから、答える。
「いないようなもん。」
「『ようなもん』ってどういうこと? そんな質問になんで考えてから答えるの?」
「あなたはガールフレンドいるの?」
「いたらきみを誘わないよ。そう思わない?」
「どっか離れたとこにいるって可能性はあるじゃん。」
「そういうこと?」
「・・・違う。離れたとこにもボーイフレンドって言える人はいない。」

遠いところに大好きな人がいて、その人も好きでいてくれる。でもその人にはステディなガールフレンドがいて、結婚の約束をしてる。それって英語じゃフィアンセ。だけど絶対そんな言葉使いたくない。「遠いところにボーイフレンドがいる」って言っちゃえばいいのに、悲しくて言えない。書類上結婚してることは、無視してる。

「僕に興味ある?」
「・・・。考えとく。」
「そんな答え方も聞いたことないよ。」

バーを出るとまた歩く。「もうおなかがすっごい大きくなって、妊婦さんみたいだよ」。そう言ったらドクターは笑ってわたしを抱き上げた。「100ポンドはあるよ」「かもね。20ポンドくらい食べたもん」。抱き上げられても驚かない。交差点で信号を待ってるあいだにキスされて抱きすくめられる。腕の中が心地よかった。あの人のことを思い出す。ううん。ずっと考えてた。なのに、抱きすくめられて、ときめきはしなかったけど安心してた。大好きな友だちが抱きしめてくれるときみたいに。

「踊りに行く? それとももう一軒バーに行く?」「どっちでもいい。あなたに任せる」。手をつないで歩く。行ったバーの奥には個室があって、大きなテーブルを囲んで知り合ったばかりの人たちが話をしてる。ドクターは、精神分析医と仕事の話をしてる。わたしは弁護士とソーシャルワーカーのカップルと話をする。ドクターは時々わたしにキスする。誰もわたしたちの関係なんか聞かない。恋人同士以外に見えるはずがない。


アパートからわたしが車を止めたところまで、ドクターがわたしの仕事用の大きなバッグを持って一緒に来てくれる。「月曜日、病院でね」。帰りの道を教えてくれて、キスをして、わたしは車を出す。

高速を走る。今度は東から照りつける陽差しが眩しくて、サインがよく見えない。
窓を全開にすると、まだ乾ききってない髪から、自分のではないシャンプーの匂いが溢れた。


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