天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

ツインタワーが残したもの - 2001年09月12日(水)

病院の立体駐車場から、ツインタワーが見えない。跡形もなくて、どこにあったのかさえ正確な位置が分からない。黒くて厚い煙がまだモクモクと青い空を汚して行くその場所が、いつも眺めてたあのツインタワーがあったとこなんだってこと以外。

シティに向かう車の中から見えるあのタワーが消えたんだ。
橋の上から見るあの風景が変わったんだ。

まだ1年しか住んでないわたしでさえそれが悲しいのに、ここで生まれて育った人たちは一体どんな気持ちでいるんだろうと思う。あの下に愛する人や家族を失った人たちは、ツインタワーの消えた跡に何を見るんだろうと思う。

いつかあの人が言ってた。
「時々ふと思うよ。世界が平和でありますようにって。今こうしてきみと電話で話してる間にも、世界のどこかで紛争が起こってるんだよ。世界中がどうして平和になれないんだろうって、ふと思うことがある。そんなこと、ない?」
「あたしは、世の中の人がみんな幸せになれますようにって思う。」
「おんなじことだよ。」
「でもね、遠い国の、どうしようもない人たちのことみんなそうやってなんとかしてあげたいって言うけど、じゃあ自分のすぐそばの人をちゃんと幸せにしてあげてる? 近くにいる人の悲しみを分かってあげてちゃんと愛してあげてる? みんながそばにいる人を愛して大切にしてあげれば、それが遠いところまでひとりずつ順番に伝わっていくんだよ。そしたらみんなが幸せになれるんだよ。」

人を愛する気持ちはいつも優しくて強い。だけど愛なんて、頼りないんだ。ひとつずつ伝わっていくはずの愛は、どこかで誰かが必ず止める。


「第2のパールハーバー」とか、「大統領を支持して国民は一丸となって・・・」とか、なんでそんなふうに煽るの? 誰のせいとかどっちが悪いとか、議論するのももうやめてよ。たくさんの人が死んだんだよ。家族をなくしたんだよ。人の手で殺されたんだよ。身体にも心にも傷を負って、こんなに苦しんでいるんだよ。理屈はもうたくさんだよ。愛国心なんか愛じゃない。ちゃんと人を愛してよ。


高速道路は相変わらずシャットダウンされたままで、サービスロードを歩くより遅いようなスピードで車を動かす。途中からサービスロードさえ閉鎖される。道が分からなくなって、2時間半かかってやっと病院に着いた。今日も慌ただしく一日が過ぎたけど、昨日より病院のまわりは落ち着いていた。

お昼にドクターがランチに連れ出してくれた。ドクターは疲れ果ててる。それでもおいしいごはんに誘ってくれて、楽しいおしゃべりをして、慰めてくれる。まだ陽差しが眩しい外は、2日前と何も変わらないみたいなのに。お昼から、またもうドクターには会えなかった。ずっと胸の奥で悲しみが重たい。抱きしめてほしいと思う。安心が欲しい。いつドクターの腕で甘えられるんだろう。「今日もあなたが来てくれてよかった。来られなかったらどうしようかと思ってた」。患者さんの一人が言ってくれた。わたしのささいな力なんか、負傷した人たちのとてつもない大きな悲しみと苦しみと痛みを救う役になんか立つんだろうかって思ってたのに。涙が出そうだった。


あの人の声は優しかった。遠い遠いところにいても、こころも身体も疲れ切ったわたしを、こんなに支えてくれる。飛行機には、遠く離れたところに住んでる愛する人にやっと会いに行ける人も乗っていたに違いない。そんなことを考えた。


「いつもより、シティは明るい日の出を迎えました。ツインタワーが日の出を遮ることがなくなったから」。朝、車のラジオで聞いたアナウンサーのくぐもるような声が、忘れられない。いつもと違う日の出は、誰の目に美しかったんだろう。









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