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恋しい人 - 2001年09月18日(火) 約束通り、今朝会ったときわたしはとっても優しくしてあげた。 それでかどうかわかんないけど、今日は殆ど一緒のフロアにいて、何度も話しかけてくれた。コンピューターを使うときも、メディカルレコード書くときも、何度も隣り合わせになった。笑顔もいっぱい見せてくれた。 ドクターがいるだけで、安心して仕事が出来る。仕事中にあの人のことを考えることが減ってる。あの人を想うたんびに胸の奥をぎゅうっと絞られるようだったあの痛みが、今はない。よかったじゃん。・・・よかったのかな。よくないよ。なんだか淋しい。 ドクターは今日もオーバーナイトで、明日は午前中に終わる。わたしは明日、やっとお休み。昨日の電話で「どっか行こうか」って言ってくれた。 「明日、どうする?」って、夕方ドクターが聞く。 「あなた次第だよ。きっと疲れてるから。」 「うん。帰ったら取りあえず寝るよ。昼間は寝てるよ、いい?」 「うん。そうして。・・・でも会いたい。」 会えないのかな、と思ってちっちゃい声で言う。 「会うよ。心配するなって。」 ドクターは笑って言った。 「明日の朝、ここから電話するよ。」 この間、ソーシャルワーカーのフランチェスカに聞かれた。「つき合ってるの?」って。誤魔化し切れなかった。フランチェスカは言う。「気がついたよ。だって、あのドクターは絶対笑わないのに、あなたがフロアにいると笑うんだもん。顔がパーッと明るくなるの。ほんとに絶対笑わないくせに、あなたがいると全然違うんだよ」。ドクターに言うと、怒る。「僕が絶対笑わない? よく言うよ、あの仏頂面が。僕が笑わないだって? そりゃあね、忙しくていつもニコニコなんかしてられないよ。だけどアイツにだけは言われたくない」。フランチェスカは美人なのに、ほんとに愛想が悪くて、冷たくて、お天気やで、話すとぶっきらぼうで威圧的で、とっても失礼なやつ。だからフランチェスカにそんなこと言われてびっくりした。ドクターは彼女のことが嫌いで怒ったけど、わたしは『あなたがいると、パーッと顔が明るくなる』の部分が嬉しくて言ったのにな。 10月になったら、ドクターはこの病院からいなくなっちゃう。そしたらわたしは誰のことを想って仕事するんだろ。あの人を想って、また胸がぎゅうっと痛くなる? ドクターが恋しくて、淋しくて仕方ない? なんで誰かのこと想わなくちゃ仕事出来ないの、わたし? バカじゃん・・・。 夜、あの人が電話をくれる。うちに帰る頃にかけるよって言ってたのにかかってこないで、夜中の1時ごろにかかってきた。わたしは今までみたいに、待ちわびてよけいなこと考えたりしなかった。最初からこんなふうに、ちゃんと落ち着いて愛せればよかったのに。あの人が彼女を愛してるのは今でも痛い。だけど、彼女を愛しながらわたしを想ってくれる気持ちが少しだけわかるような気がしてきた。 「明日も電話出来る?」ってあの人が聞く。きみの夜の8時頃に電話かけてって。明日はお休みだって言えなかった。「何するの?」って聞かれるのがわかってるから。夜の8時に電話も出来ない。わたしはドクターのところにいる。 あの日からずっと恋しかったドクターの腕の中。やっと明日はあの腕で抱きしめてもらえる。今はドクターの腕が欲しい。あの人の代わり? 多分違う。 それにしても、もっと早く救出活動が捗らんものかねぇ〜。まだ120万トン中の2万トンしか瓦礫の排除が出来て無いんだろ? しかも、奥の方は燻ってるし・・・。 報復攻撃より先に現場の救出活動にもっと人を出せんのかなぁ? 日本の友だちから来たメール。違うよ。 毎日毎日、救出作業は続いてます。緊急車両は今も絶え間なく走ってる。 ボランティアの人たちも増える一方なんだよ。 そんなに頑張っても頑張っても、簡単にはいかないんだよ。 それほどのことだったんだよ。 わたしは返事を書いた。メディアが伝えることなんか、そんなもの? 患者さんのひとりが泣き出した。お母さんから病院に電話があって、彼女の幼いときからの友だちが死体で見つかったって知らされたらしい。あれから1週間も経って、やっとわかった悲しい事実。精神的なショックが手伝って、患者さんの容態が悪くなる。高熱が出て、震えが止まらずに、吐く。軽い錯乱状態になる。 「生存はもう確認されないでしょう。それでもわずかな希望は捨てられません」。 今朝ラジオでアナウンサーが言ってた。 星条旗が街に増える。星条旗のピンをつける人も増える。 どうなるの? ドクターの胸が恋しい。早く抱きしめて欲しい。 -
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