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ひとりで迎えた朝 - 2001年09月20日(木) 昨日はずっと一緒にいられると思ってたのに。 タイヤの交換に行ったら、1時間かかると言われて、1時間半に延びて、あと45分って言われて、もう30分延びて。結局3時間近くかかった。なんで?って聞いたら、今日は人手不足。お昼に2人行っちゃったから。・・・。じゃあ、初めから言ってよ。こんなに時間かかるんだったら、今度にしたのに。こういうとき、ちょっと頭に来る。「アメリカ人のいいかげんさが好き」とか「クレイジーなところが好き」とか、そういうこと言う人、日本の友だちにいるけど、こんなのが日常茶飯事だと大変なんだから。 ドクターのところに着いたのは、もう夕方近くだった。 わたしはくたびれて、待たされたのにくたびれて、なんか誠意のない修理屋さんにくたびれて、予定よりもう少しかかる修理代にくたびれて、高速の渋滞にくたびれて、まだ真夏みたいに熱い陽差しにくたびれて、ドクターの顔見たとたんになんだか悲しくなった。 「座りなよ」。そう言ってベッドにわたしを座らせて、話を聞いてくれる。しょうもない愚痴話をちゃんと聞いてくれて、「ちょっと横になりなよ。疲れてるよ」って言う。ぎゅうって抱きしめてくれたあと、優しいキスをいっぱいくれて、わたしは悲しい気分から解き放たれて行く。 オーバーナイトが終わって午前中には帰れたのに、ドクターはそのあともうひとつの病院に行かなくちゃならなかった。ほんとにほんとに疲れてるのはドクターの方。夜7時からはミーティングがあって、そのあとまたもうひとつの病院に行くって言う。だから朝まで一緒にいられない。 ドクターが出かけなきゃならない時間になって、わたしは腕の中で甘える。「行かないで」。「そんな淋しそうな顔するなよ」って、ドクターはわたしの顔をじっと見て言う。抱きしめてくれるドクターにわたしはキスをして、喉にキスをして、胸にキスをして、おなかにキスをして、ドクターの体の下をトンネルをくぐるみたいに滑り下りて行ったら、その場所にとどまる。ドクターの息づかいが荒くなるのを聞きながら、「ミーティングなんか行かせてやらない」って悪魔になったわたしは思ってる。 突然上体を起こして、ドクターはわたしを枕元に抱き上げる。「もっと欲しい?」。わたしは答えない。「やっぱりミーティング、行かなきゃ」って今度はちょっと思う。「もっと欲しいの?」「・・・。」「答えなよ。Yes or No?」「・・・。」「答えなってば。Yes? No?」「Yes」。首に抱きついてわたしは答える。 もうミーティングが始まる時間になってる。「いいさ。定例の、なんて事ないやつだから。でも仕事には行くよ。行かなきゃ」。そして「キスして」ってドクターは言った。悪魔はもうおしまい。 ドクターは車のところまで送ってくれて、いつもみたいに抱きしめてくれる。何回も抱きしめて、何回もキスしてくれた。小鳥がついばむような、優しいキス。あの人もそうだった。エレベーターの中で、喫茶店で、ホテルからの帰り際に、そっとそっと優しくくちびるを重ねてくれた。「来てくれてありがとう。車、気をつけるんだよ」。そんな決まり文句を、ドクターは抱きしめながら耳元で囁いてくれる。特別なことなんかじゃない。大事な友だちにならわたしだってすること。それでもドクターの声はとてもとても優しくて、嬉しかった。もう通い慣れた高速を、ちゃんと死角確認しながら走る。そして、あの人のことを考えてた。あの人は知らない。わたしがこうやってドクターと会ってること。「デートしようかなあ、ドクターと」なんて、もう言わなくなった。言わなくなったから、わかってるかもしれない。朝までドクターと過ごせなかったからってあの人の声が聞きたいなんて、いいかげんな女って思った。 うちに帰ると9時半だった。あの人はわたしの7時に電話してって言ってた。かけられないと思うって言ったから待ってはなかっただろうけど、話せるかなと思って電話した。携帯は切られてた。 予定になかったひとりの夜。チビたちのつめを切ってやる。 朝、6時頃に電話で起こされた。「電話してくれた? ごめんね、こんな時間に」。まどろみながら聞くあの人の声。なつかしいと思った。こんなふうに朝電話をくれたのはいつが最後だっただろうって思った。そんなに前じゃないのかもしれないのに。大好きな大好きな人。誰よりも愛しい人。想いは変わらない。切なく甘くわたしを包む。あの人が望んでるようにあの人を愛せる気がする。ドクターとの恋を終わらせなきゃいけない来年の7月までは。 そして気がつく。あのままドクターのところに朝までいたら・・・。 昨日、ドクターはシャツの襟に星条旗のピンをつけてた。理由を聞きたかったけど、聞かなかった。アメリカ人として、そうしたい心情だけなのかもしれない。アメリカ人同士なら、そういう気持ちが分かり合えるんだろうと思う。そこまでは分かるけど、わたしにはない感情 ー「God bless the USA」。なぜ、「God bless the world」じゃないんだろう。 毎日祈る。すべての人がそれぞれの天使に守られますように。 -
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