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お月さん - 2001年10月02日(火) 大きな大きな月だった。 オレンジ色があったかそうで、あの人のこと考えながらずっと見入って運転してたら、高速の出口見落とした。 出口を見落としたから、少し帰りが遅くなって、なんとか間に合った約束の時間に電話した。おじいちゃんは記憶が前後してて、だけどあの人の名前も顔もちゃんと分かっててくれて、よかったって言ってた。肝心の脳内出血の範囲はまだわからないらしい。 夕べはちょっと安心して眠れたよって、まだ疲れた声であの人は言った。名前を呼んで、「大好きだよ」ってわたしは言ってた。 4月のまんまになってたオードリーのカレンダーをめくったら、今日の日付けのところにフルムーンのマークがついてた。 今日のお月さん、見た? ものすごくおっきくて、あったかそうで綺麗だった。 帰りの車からずっと見てたの。 それだけ。 気がついてないかもしれないと思って、 教えてあげたくなったの。 だけどもう遅いよ。 もう普通のサイズに戻っちゃった。 Have a good full moon night. p.s. いつ旅行に出発するって言ったんだっけ? 土曜日? 日曜日? 忘れちゃった。 もう返事くれるまでメールしないって思ってたのに。きっと土曜日に行っちゃうんだ。会えないんだよね。 そんな恋をしてた。まだ10代の頃。つき合ってって言って追いかけてきたのは彼だったのに、いつの間にか、わたしの方が好きになっちゃった。友だちが多くて、忙しくて、会えなくて、どこにいるのかもわかんなくなって、追いかけても追いかけても想いが届かない人のようで、だんだん淋しくなってった。女友だちも多い人だった。 最初に結婚したときも、離婚したときも、次に結婚したときも、あの娘が死んだときも、別居を決めたときも、報告して、 あの日には、「心臓がどきどきしてる。生きてるんだろ? 大丈夫と言ってくれ」ってメールくれた。 バースデーにカードを送ったら、返事が来た。 ひとりで寂しいと思うけど、がんばれよ。 新しい出会いは受け入れること! いい女なんだからさ。 どきっとした。ドクターのことなんか、何も報告してないのに。寂しいなんても言ってないよ。「いい女なんだからさ」がくすぐったくって、笑っちゃった。報告したいけどね、出来ないんだよ。あの頃とおんなじに、ひとりで追いかけてるみたいになっちゃってるの。 別れたずっとあとで、「きみしかいなかった。特別愛してた」って言ってた。つき合ってるときに言ってくれたらよかったのにって思った。 全然進歩がないね。大人の恋って何? わたしには出来ないよ。ごちゃごちゃ理屈を考えても、いろいろ理由も見つけ出しても、あれこれ言い訳並べ立てても、いつまでたっても好きになる気持ちの中身は一緒。 細い細い三日月の下にぴったり寄り添う赤い星を見つけたら、制服とブランコと「金星だよ」って教えてくれた言葉を思い出すように、オレンジ色の大きな月を見るたびにドクターに送ったメールを思い出すのかな。 あの人は、気がついていませんように。まんまるい月を見るたびに、おじいちゃんを悲しむのは辛すぎる。 -
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