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ここまで会いに飛んで来て - 2001年10月03日(水) 「アメリカに行く日が近づいて来たよ」。 おじいちゃんは ICU から、病棟の個室に移った。足と腕のケガは大したことなくて、骨にも異常がなくて、だけど頭の中のケガのせいで動けない。記憶もまだおかしいまんま。退院しても・・・。もし退院出来なかったら・・・。そんな、これからの家族のことをあの人は淡々と話す。自分にひとつひとつ説明するように。言い聞かせるように。 わたしはまるで、家庭に起こった変化とそれに対処していく方法を母親から聞かされて、なんとなく怖くて自分がだんだん小さく縮まっていくような気がする子どもみたいな、そんなふうになってあの人の話を聞いてた。 ずっと家族なんか無視して、何が起こっても知らん顔して、早くうちから出ていくことばかり考えてた遠い自分も思い出してた。 あの人の優しさも素直さも、平凡で、だからこそ幸せな、そんな家庭のなかで培われたものなんだなって、あらためて思った。そうしてそんな幸せを当たり前のように自分の将来に当てはめて、それは何も意識しなくても本当に当然のことで、そうやってあの人は自分が育ったような穏やかで幸せな家庭を作っていく。 アメリカの仕事、こんなで頑張れるのかなって不安になってるよ、って言った。励ましてあげたかったのに、「会いたいな」って言ったらまた涙がこぼれそうになった。 あの人が来るところと、ドクターが行くブラジルと、どっちが遠いのかなあって思う。ブラジルの方が近いんだよね。たった一週間でも、あの人はドクターと入れ替わりになれないね。 「明日は日本は10月4日でしょ? 天使の日なんだって。」 ほかの人が書いてるのを読んで知ったことを教えてあげる。 「なに? セイシの日?」 「なによ、セイシって。飲むヤツ?」 「そうそう。その発想はおかしいけどね。普通は子どもがどうのとかって言うんじゃないの?」 「精子じゃなくて、天使の日。」 「なんで?」 「10がテンで、4がシだからでしょ。」 「なんだー。ベタな日本の語呂合わせか。アメリカのだと思ったよ。」 いいじゃん、ベタでも。素敵じゃん。あなたの日だよ。 天使。わたしの天使。ここまで会いに飛んで来て。 -
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