天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

つるつるになる石鹸 - 2001年10月18日(木)

火曜日は日曜日の出勤の代休だった。シティに行った。ミッドタウンはまるで何ごともなかったかのように、平和そうに見えた。

用事を済ませてから帰りの駅に向かう途中で、また隠れたところにアウトレット商品を置いてるお店を見つけた。高い家賃の上に、車の修理代とか、心臓に悪い電話代の請求書。ずっと節約してきたご褒美に、って矛盾も甚だしい理由をくっつけてスカートを買った。

おしゃれなドクターが洋服を誉めてくれると、100点取った子どもみたいに嬉しい。猫の肌触りみたいになめらかでしっとりした生地も、黒猫みたいな黒の色も、うんと低いところで腰骨に引っかけるハングの位置も、微妙に広がった裾のラインも、両脇のスリットの量も、仕事にはちょっと無理かなって思う丈も、みんな気に入った。早くドクターに見せてあげたいと思った。

洋服買うときは、いつもあの人のこと考えてた。これ着て空港に迎えに行こうとか、これ着て一緒にクラブに行こうとか。秋にも、クリスマスにも、2月にも、春にも、夏にも、あの人のために特別な洋服が待ってた。輝かしくデビューする機会を失って、全然特別じゃなくなっちゃった洋服たち。


昨日、日本に帰ったあの人が電話をくれた。その前の晩には帰ってたはずなのに、こっちからかけると携帯は切られてた。彼女に会ってるんだって思った。空港で出国の手続きに8時間かかったらしい。チェックが厳しくて、荷物の中身を下着から何からひとつづつ調べられたって言ってた。アメリカの緊張がわかったって言ってた。

「きみにお肌がつるつるになる石鹸、買ってあげたからね。送るよ」。
ホテルの石鹸が汚くて、ドラッグストアに買いに行ったら、お肌がつるんつるんになる石鹸だったって。ホテルの汚い石鹸ってのがよくわかんなかったけど。

つるつるになる石鹸。天使みたいなあの人のお尻を思い出した。

「彼女にも買ってあげたの?」。またわたしはそんなことを聞く。日本に戻ったあの人を、わたしはこころでだけでも独り占めできない。「買わないよ」ってあの人は答えた。少し前ならきっと泣いてた。ほんとにわたしだけに買ってくれたとしても、彼女を愛してるあの人が悲しくて泣いてた。昨日は泣かなかった。悲しかったけど、泣かなかった。

帰って来たばっかりなのに、もう次の朝から仕事に行く。電話は駅までの短い時間だけだった。
「もう着いたよ、駅に。」
「やだ。やだやだやだ。まだ行かないで。」
あの人は笑って言う。
「しばらく見ないうちに、子どもになってるじゃん。」
しばらく見てないうちに? ずーっと見てないじゃん。もう1年半近く。それともあなたも電話のたびに、わたしのこと思い浮かべてくれてるの? 
「だって、いやだ。まだ切っちゃダメ。ダメダメダメー。もうちょっとだけ。ね?」
「困った子だなあ。明日はいっぱい話せるからさ。」
日本に戻ったあの人が、駄々っ子に戻ったわたしをたしなめてる。


ドクターからは火曜日以来メールが来ない。水曜日か木曜日の夜に発つって書いてたけど、どっちなんだろう。今頃飛行機に乗ってるのかな。ナントカって島は観光客を規制してて行けなくて、ラシーフェの海でスキューバダイヴしたらしい。ドルフィンもカメもサメもいなかったけど、めちゃくちゃ平べったいカレイがおもしろかったって書いてた。早く帰ってくるのやめて、まだ潜るの楽しんでるのかもしれない。

週末、会える? でも聞かない。待っていたい。ドクターが言ってくれるまで。あの人になら絶対言うのに。「彼女と会う」って言われたって、「だめ。あたしと会って」って。

つるつるになる石鹸、早く欲しいな。おんなじの買って、ドクターと会う日に使いたい。あなたがくれるのはちゃんと取っとくから。それならいい?

彼女はつるつるのお肌なの?

そんなこと考えながら、わたしはドクターに抱かれたくなってる。


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