It's like a new pair of shoes - 2001年11月07日(水) それは新しい一足の靴のようなものなんだって。 素敵な靴をお店で見つけて ある時はすぐにでも買って あるときは毎日靴屋に通って眺めたあげくにやっと手に入れて 手に入れたあとは嬉しくて嬉しくて 毎日でも履いていたくて、履いた自分の足を眺めてはいいなあって思って 履き慣れるのがまた嬉しくて、人に誉められると嬉しくて。 それでも靴はくたびれていくから そのうち違う新しい靴が欲しくなって 気が付いたら靴屋の店先に立っている。 だけど本当に自分の足にぴったりで ものすごく気に入ってたら 大事に大事に履いて くたびれかけたら手入れして 壊れかけたら修理に出して そうやってずっと大切にする。 昨日、家賃のチェックを持ってアパートのオフィスに行ったら、マネジャーのウォーンがいた。「久しぶりだね」。チェックはずっと、まだオフィスが閉まってる仕事に行く前の時間に、封筒に入れてドアの下から滑り込ませてたから。「Howユs everything in your life?」。やだやだ。そういうこと聞かないで。わたしってマトモに答えちゃうんだから。かわせないんだってば。 「失恋したの」。 「みんな話したら楽になれる法則」覚えちゃって、わたしはまた話す。ウォーンはペーパータオルをちぎって、ソファに座ったわたしに持ってきてくれた。なんでペーパータオルなの? 思い出すじゃない。 夕方のオフィスは少しずつ気温が下がってきて、半袖のシャツがちょっと寒くなったけど、ずっと話していたかった。ひとりのお部屋に戻りたくなかった。ウォーンは真剣に聞いてくれて、真剣に答えてくれて、真剣に話してくれた。 「あたし、修理に出そうと思ったんだよ。修理に出したかったの。なのに・・・。」 「ひとりでそう思ってもダメなんだよ。ふたりで思わなくちゃ。」 靴と相談するの? とか聞きそうになったけど、黙って聞いていた。そうじゃなくて、わたしは修理に出してもらえなかった靴なのかな、とか。出してはくれたけど、修理屋さんが「お客さん、こりゃもうダメだわ。もうちょっと早く持って来てくれたらよかったんですがね」って言ったのかな、とか。「ここが最初から欠陥だったみたいだねえ。いい靴なんだけどねえ。いや、全然たいしたことじゃないから、お客さんさえ気にならなければ、このまま大事に履いてくださいよ。こんないい靴、めったにお目にかかれませんぜ」って何故か翻訳調で、修理屋さんがそう言ったのに、欠陥が気になったんだろうな、とか。何度も修理に出そうと思ったのに、靴のわたしが行くのをイヤがったんだよね、とか。なんだかウォーンの比喩を茶化してるみたいなこと、真面目に考えたりした。 わたしの靴はおしゃれでカッコよくて、履いてみたら履き心地よくて足に馴染んで、今までこういう靴って履いたことなかったけど、結構いいんだ、違和感ないじゃん、って、そんな靴だった。とっても気に入って毎日履いてたのに、手入れしなくても平気だって思ってたかもしれない。 あの人はそれはそれは素敵な靴で、5日だけ履いてみたけどこれほどぴったり合う靴はなくて、絶対にほかではもう見つかんないから、ずっと大事にこのままとっておきたくて、でも時々履きたくなってうちの中で履いてみたりして、そしたら冷蔵庫の角でぶつけてちっちゃな傷作っちゃって、その度にミンクオイルで丁寧に丁寧に傷をなおす。 でもね、突然消えちゃったあの靴・・・。 まだ喪失感を拭えない。 天使の靴は消えないでね。消えないよね。大事に大事にするよ。 「きみは何も間違ったことしてないよ。ただね、ちょっと見る目が足りなかったのかもね。」 ウォーンはそう言った。そうなのかなあ・・・。 -
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