魔法にかかった時間 - 2001年11月19日(月) こんなにたくさん話せた日なんて、いつからなかっただろう。 いっぱい話して、泣いて、笑って。 会いたいって泣いたわけじゃない。 彼女のことで泣いたわけでもないし、あのことで泣いたわけでもない。 珍しく、普通の人が普通のカレと普通にケンカして泣くような、普通の理由で泣いた。 「機嫌なおして」ってあの人が言う。 「おもしろい話したげるから。」 「いらない。」 「飴買ってあげるから。」 「バカ。」 「ねえ、機嫌なおしてよ。」 「なおんない。」 「歌うたってあげるから。」 「・・・。うそ。歌って。」 『あっるうひっ・くまさんがっ♪』 「・・・。」 「ほら、輪唱しないと。」 「いらない、そんなの。ちゃんと歌ってよ、そういうんじゃなくて。」 あの人ったら、ピアノ弾いて歌うたってくれた。 「じゃあ、ちょっと待ってて」って、ピアノの和音がいくつか聞こえて、 「聞こえる?」って聞くから「うん、聞こえる」って答えて、 そしたらピアノの旋律が聞こえて、あの人がその上に声を少しだけ乗せて、 「聞こえる?」ってまた聞くから「うん、聞こえる」って答えて、 どきどきしながら待ってた。 一生懸命受話器を耳に押しつけてたけど、歌詞がよく聞き取れなかった。 日本語と英語が混ざった歌だった。We are ナントカカントカ ・・・together とかって言ってるようだったけど、違ったかもしれない。あの人が作った曲じゃなかった。絶対違うってわかった。素敵なメロディだったけど、あの人のじゃないってわかった。 鍵盤の上を踊るあの指が見えて、おしゃべりのときと少し違うあの声が嬉しかった。 しばらく忘れてたあの人の夢をまたわたしはからだ中で感じてた。 わたしだけのものだって思えた。 「機嫌なおった?」 って、もとに戻ったあの人が聞いた。 「まあね。半分くらいかな。」 「半分ー? なんでさー? こころ込めて一生懸命歌ったのにィ。」 機嫌なんかすっかりなおってるの知ってて、そう言う。 こんな気持ち、ほんとにいつからなかったんだろう。 また魔法にかかった時間だった。 あの人じゃなきゃ、かけられない魔法。 わたしにしか、かからない魔法。 -
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