Last Christmas - 2001年11月27日(火) いつもより人が多くなったミッドタウンを歩く。 クリスマスのイリュミネーションがなつかしいような、暖かいような、哀しいような。 決してきらびやかでなく派手じゃなく、人工的でなく軽々しくなく、 街にごく自然に溶け込んで重みさえ感じさせる彩りとデコレーション。 ショーケースに飾られた動く人形たちを、立ち止まって静かに見続ける人たち。 初めて迎えた10年前、あまりの質素さにがっかりした。外国のクリスマスってもっとすごいのかと思ってたから。こんな落ち着いたクリスマスの風景を、いつからかとても好きになってる。 賑やかな音楽が街じゅうにガンガン鳴り続けたりもしないけど、入ったドラッグストアで wham! の「Last Christmas」がかかってた。 一番好きなクリスマスソングを問われたら、今でも絶対この曲をあげる。英語の歌詞なんか聞き取れなかったうんと昔は、幸せな歌なんだと思ってた。歌詞がわかるようになって、それでもこの歌の切ない恋は人ごとで、ただなんとなく胸がきゅんとなるのが好きだった。昨日聴いたら、体が崩れそうになるほど、痛かった。苦しかった。去年でさえ、こんなふうには感じなかったのに。 暗くなり始めた夕方の人込みの中、わたしは探してた。絶対にいるはずのないあの人ではなくて、もしかしたら歩いてるかもしれない人を。こんな人込みでわかるはずがない、たとえいたとしても。そんな偶然あるはずがない、こんな大きな街で。それに、ミッドタウンは一番パスしそうなところだ。それでもあんな風に手を繋いだり肩抱き寄せたりしながら誰かと歩いてるかもしれないとか、タクシーを探しながら誰かを抱きしめてキスしてるかもしれないとか、思ってた。たくさんのたくさんの笑顔の中に、そこだけ陽が当たったみたいなあんな笑顔さえひとつだって見つからなかった。 「ロックフェラーセンターのもみの木の下のスケートリンクってね、ちっちゃいんだよ。3時間並んで待って制限時間20分だし。手繋いで一緒にスケートしたかったけどさ、これならいいやって思っちゃった」。笑って言ったのに、「ごめん」ってあの人が言うから泣きそうになったこと思い出してた。来年のクリスマスなんかもっと来られないよ、ってあきらめてたけど、ほかの誰かのことでまで辛くなるなんて思ってもいなかった。 夜、夫から電話があった。 メールを送ったわけでもなかったから、驚いた。 夫は落ち込んでいた。わたしとのこととはまったく反対側の、でももっともっと先に行けばぐるっと回ってくっつくようなところで起こった事で。落ち込んでるっていうより、「絶望」とか「失意のどん底」とかいった、そんな様子だった。崖っぷちに肩を落として呆然と佇んでるかのようだった。話を聞いて、わたしも愕然とした。そんな夫に離婚なんて言葉を投げかけて、追い打ちをかけることは出来なかった。 それでも、3時間くらい話をした。「あなたが一番望んでることは何? どうしたいの? 言ってもしょうがないって思わないで、可能性とかも考えないで、一番正直な気持ちを教えて?」。そう聞いたら、わたしとあの娘と3人で幸せだった頃からやり直したいって途切れ途切れに答えた。そんな夫が辛くて悲しくて嫌だった。崖っぷちに立ってても、上を見れば空は繋がってるのに。横を見れば道は両側に伸びているのに。 あの娘のいたクリスマスなんか、返ってくるはずがない。 あの娘のいたクリスマスなんかに、戻れるはずがない。 夫は疲れたから明日また電話すると言って切った。わたしは朝まで眠れなくなった。 出かける前にあの人から電話があった。夫との電話のことを、おんなじところばかり繰り返しながら上手く言えないまま話してた。「今は混乱するばっかりだから、ゆっくり考えなよ。遅刻するよ」って言われた。 wham! の「Last Christmas」のその人は、今でも彼女が someone special なんだろうか、なんて、バカなこと考えながら仕事に行った。 -
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