天使に恋をしたら・・・ ...angel

 

 

予感 - 2002年01月06日(日)

あれからわたしは思い出してばかりいる。
楽しかった頃のことよりも、別居を決めてからの、いいようのない切なさと寂しさの入り交じった日々のこと。

悲しくならないように、辛くならないようにと、ふたりして一生懸命平静を装っていたような毎日だった。一緒に何か楽しいことをしようとすると、それが全てわざとらしいみたいな気がして、それでもそんな嘘っぽい楽しさにしがみついていた。昔みたいに夜中にお茶を飲みに行ったりドライブに出かけたり、うんと仲が良かった頃によく行ったお店にごはんを食べに行ったり。思い出を再現したかったのかもしれないし、住み慣れた街との別れを惜しんでたのかもしれない。

それぞれの行き先へのチケットを同じ日に取って、別々の荷造りを始めてから、わたしは Sweetbox の CD を毎日毎日 BGM にかけていた。「わたしの今一番のお気に入りなの。絶対あなたに聴いて欲しかったの。あなたもきっといいって言うよ」。日本に会いに行ったとき、そう言ってほかのあの人のリクエストのアルバムと一緒にあげた CD だった。思ったとおり、あの人はすごく気に入ってくれた。

毎日毎日聴かされて、「拷問みたいだな」って夫は笑った。少し前なら「もういいかげんに止めてくれない?」とかって意地悪く言ってたに違いなかった。そんなふうになんとなく気を使い合ったり、優しくなれたりして、その度に切なくなってた。

別れる前の晩に、あの娘が好きだったビーチに行った。言い出したのは夫だった。波打ち際を駆け回るあの娘をハラハラしながら追いかけるみたいに、夫は海に向かった。まるでそのまま水の中に入って行きそうな気がしてどきっとした。波打ち際で夫は突然しゃがみ込んだ。わたしはずっと後ろのほうでそれを見てた。泣いているのがわかった。わたしはただ、立ちすくして見てた。涙が溢れた。溢れて止まらなかった。暗闇のビーチに目を凝らして、泣いてる夫の背中を遠くから見つめながら、声を上げて泣いた。

お互いに胸の内に思いがあったはずなのに、決して口にしなかった。


離婚を前提にした別居じゃなかった。ただ一緒に居られなくなった。離れて暮らしてお互いを見つめ直そうとか、そういう別居でもなかった。ふたりとも許せないことがあって、ただ苦しくてどうしようもなかった。一緒に居ることが寂しすぎて、愛し合えなくなったことが哀しすぎた。夫は日本に帰りたいと言って、わたしは帰れないと言った。わたしはほかの場所でやらなくちゃいけないことを見つけて、夫は一緒には行けないと言った。

そして、離婚しなくちゃいけない時が来て、わたしたちは離婚する。
お互いの道を認め合って、お互いの将来を応援して、お互いの幸せを信じながら。
幸せな離婚だって思うけど、それはウキウキするような幸せでも、空を見上げて大きく息を吸いたくなるような幸せでもない。幸せな離婚だと思うのは、これが永遠の別れではなくて、結婚では築けなかったいい関係をこれから作っていけるような気がするから。

別れなきゃいけないから、別れる。どうしても別れなきゃいけない。
別居してても、もう愛し合っていなくても、手を伸ばせば届く結婚っていう安全とか安心とかいうものに、無意識のうちに頼っていたかもしれない自分たちを断ち切るために。

悲しいお別れは、あの日あのビーチで終わったんだ。もう悲しまなくていい。悲しむことなんかない。


いつかうんと先に、わたしと夫は、また一緒に暮らし始めるかもしれない。そんな予感がする。結婚っていう形でではなくて、愛し合うわけでもなくて、最良のルームメイトとして。期待とか理想とかじゃなくて、ただなんとなくそんな予感がする。そして、はちゃめちゃな人生ついでに、そんなはちゃめちゃなことがあっても不思議じゃないか、なんて思ったりしてる。








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