天使のいる場所 - 2002年02月21日(木) あの時、天使がドクターのなかに入り込んで、 一緒に時間を過ごすためにわたしの前に現れてくれたのかもしれない。 2ヶ月って決めたそのあいだに、楽しい時間をたくさんくれて、一緒に仕事もしてくれて、 それから天使はそのまま、あの娘のいるところに帰ってしまったのかもしれない。 それなら全部つじつまが合う。 あんなに苦しかったときに突然ドクターに誘われたことも。 初めから、ずっと前から知ってる人みたいだったことも。 いつもあんなに自然でいられたことも。 腕の中があんなに心地よかったことも。 言葉があの人とあんなに同じだったことも。 別の自分になってここで生活したいなんて思ってたわたしに、「間違ってるよ、それ」って言いに来てくれたのかもしれない。 ほかの人を好きになる練習させてくれたのかもしれない。 練習だったら違う人がよかったのに。 ドクターは本番がよかったのに。 そんなことを考えてた。 そんなことを考えても悲しくなかった。 天使が帰ってしまったのなら、その事実を受け入れるしかないって、ものすごく冷静に思ってた。 電話がかかって来た。 別にいつもと変わらなかった。 あの人は怒ってなんかいなかった。 なんで怒んないんだろうって、ぼうっと思ってた。 恋人じゃないから怒ったってしょうがないのかなって思った。 でも悲しくなかった。 「勉強しなよ。」 「・・・うん。」 「昨日も電話したんだよ。頑張れって言いたくて。まだ帰ってなかった。」 「・・・そう。」 「どうしたの? 淋しい?」 天使はまだいた。 天使はあの人のなかにしかいないと思った。 あの人の彼女の恋人のあの人にしか、天使はいないと思った。 「彼女と会った?」 「会ってないよ。なんで?」 「だって、今週会うってこのあいだ言ってたじゃん。」 「会ってないよ。これから3月いっぱいずっと忙しいから、会わない。だからいつでも電話しておいでよ。」 あの人がまるごと天使だったらよかったのにって思った。 あの人の彼女の恋人のあの人のなかにいる天使じゃなくて。 それでも悲しくなかった。 そう思っても悲しくなかった。 天使がいなくなっても悲しくないより、 まるごと天使じゃなくても悲しくないほうが、 悲しくないって思った。 天使はいつまででもそこにいて、 わたしはいつまでも手を伸ばせなくて、 そしてわたしは悲しくない。 -
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