あの娘が置いて行った罪 - 2002年03月10日(日) 外が明るくなってようやく眠りについた。 あの人の電話で起こされた。 もう夜の11時だっていうのに、 明日のライブのメンバーの一人が事故に遭ったらしい。 急遽ピンチヒッターを雇って、 コーラスは自分がやって、 これから朝まで練習だって焦ってた。 どうしよう、出来るかなそんなの、間に合うかな、出来るかな、どうしよう、って焦ってた。 翼と輪っかをその娘に手渡しながら、女神さまは言いました。 天国に来る者は誰でもこれと引き替えに、生きてるあいだの罪を全部地球に置いて来なければなりません。あなたには置いて来るべき罪が何もないので、ご褒美をひとつだけあげましょう。 そして女神さまは尋ねました。 「抱きしめることの出来る腕と、離れていても伝え合える心と、どちらを望みますか?」 その娘は答えました。 「どんなに離れていても伝わる心を、わたしのママにあげてください。 そばにいても分かり合えない心に、ママはずっと苦しんできたのです。」 こうしてその娘は生まれて初めて犯した小さな罪をママに残し、翼と輪っかをもらって、天国に逝くことが出来ました。 わたしには伝わった。 あなたのこころ。言葉以上に震えてたこころ。誰にも言えない不安。 大丈夫よ、大丈夫。きっと上手く行くから。今までいつもそうだったでしょう? わたし、お祈りしてるから。ずっと応援してるから。 焦らないで頑張って。大丈夫よ。絶対絶対、大丈夫だから。 あなたにも伝わってた。 わたしのこころ。あなたの力を信じてるこころ。あなたにあげたい支え。 声がだんだん落ち着いてきて、少しずつ自信を取り戻した音が聞こえて、言葉にはしなかったけど、あなたはありがとうって言った。 会えないから、顔が見えないから、耳を研ぎ澄ませてこころの声を聞こうとするんだよね。 ほんのすこーしのいつもと違うトーンにも気づける。 だから、こころを伝え合える。そばにいられない分、強く強く。何よりも確かに。 それはわたしにとってはちょっと悲しくて、とても淋しいことだけど、 そばにいられたらいられたで、苦しいことには変わりない。 あの娘がどっちを選んでいても、それは女神さまの策略で、どっちもあの娘が残すべき優しい罪だったのだから。 そして、ママ思いのその優しいこころに打たれた女神さまは、特別にもうひとつの望みも叶えてあげようと決心しました。その娘のママに、そばにいていつでも抱きしめてくれる人を、別に見つけてあげることでした。罪ではなくて、今度は本当のご褒美に。けれども女神さまは、そのことをすっかり忘れてしまっているのでした。 なんてね。 早く思い出せ、女神さま。 -
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